鮭
鮭さん (8z9vrvz5)2024/5/5 01:17 (No.104374)削除〖悪い気はしない。〗
「…………ハ?」
とあるいつもの通りの日常。
突然の出来事。
撫でられている、頭を。
「おイ、何気安く触ってんだヨ。」
そう言えば、相手の手を振り払う。
『あーすまん』
「オマエふざけるなヨ。」
軽い謝罪。
虫酸が走る、謝るならちゃんと謝れ。
「んデ、何でいきなり人の頭を撫でたワケ?」
『えーっとなァ…もふもふしてそうだったから。』
「引くワ、そんな理由で撫でんナ。」
『えー……』
自身のもふもふとした耳が気になったそうだ。
いや…それだとしても引く。
分が悪そうに、苛立ちを隠さずに舌打ちをした。
『そんで、撫でられた気分はァ?』
「ハ?」
『いやだからァ、撫でられた気分はどうだよォ?』
「気持ち悪い以外にあると思うのカ?」
『気持ち的な問題じゃなくてよォ、体感的なもんでどうだったかを聞いてんだよォ。』
「…………」
乱雑に髪を掴まれる訳でも無く、引っ張られる訳でも無く、優しく撫でられた頭。
体感的なものを問われれば、全くもって気持ち悪くは無かった。
そのことを言うかどうか、少し目線を下げて、何も言わずに考えた。
『ま、言わねェんならそれでいいわ。』
かなりいい事を言ってくれる。
こちらとしては好都合
『勝手に良かったと思っとくからよォ。』
と思ったのも束の間だったようだ。
「ハァ?ふざけるのも大概ニ…」
『じャあ感想言ってみろよォ?』
「…………」
『素直じャねェなァ…』
そんなことを言われれば、また顔を下げた。
自分のプライドが邪魔をするのだから、言える訳が無いだろう。
目の前の存在に感想を言う程、プライドは捨てていないのだから。
『そんじャ、俺はもふもふ堪能出来たから帰るわァ。』
「金は払ッて貰うからナ。」
『はいはい。』
そんな会話すれば、ここから離れる背中を見送る。
「………ハァ…」
大きな溜め息。
ふと、撫でられた頭に手をやる。
撫でられたことなんて久しぶりだ。
兄に撫でられたくらいの記憶しか無い筈なのに。
何でこんなにも、感情がめちゃくちゃになるのだろう。
色々な感情が入り交じって、また溜め息をついた。
今一番、言えること。
彼から撫でられたことは
「…………悪い気はしなかッタ。」
本音
誰に届くことも無い言葉。
思わず、独りで零してしまった。