柚
柚子カレーさん (8zml5wu2)2024/2/6 09:15 (No.94015)削除【燦輝ちゃんとイェンスくんの話】
「ねー、おにーさん迷子?」
地図を片手に、ウロウロと歩き回る男が1人。燦輝の目に入る。さっきからずっとなにか探して行ったり来たりしてるんだよねぇ。
「あ"?」
「やだ〜威嚇しないでっ☆」
ひぇ。こっわ。2,3人殺してそうな目してる。やばちゃん。よく見りゃピアスもめっちゃしてっし。いやそれはウチも同じか。まあそこでグイグイ行けんのがギャルってもんよ。任せろ。
「あんまウロウロしてっからさ、ちょっと気になっちゃって〜。なんか探してんなら手伝おか?」
目を逸らして、なにか考えている男は、数秒して舌打ちをした。いや舌打ちやめろし。失礼だし、怖いし。その上ため息までついたよこいつ。話しかけたのまじ失敗だったかもしれん。
「アクセサリーショップ。探してる」
あ、そういう。あれか、人に頼んの嫌なのか。よく見りゃ足先も動いてっし、耳も立ってる。うーん警戒心バリバリ。臆病ちゃんか?
「あー!おにーさんピアスバチバチだもんね〜。あれ、いつもの店で買や良くね?あ、気分転換とか?わかるわかる別のブランドつけたくなるt」
「マシンガントークやめろ。そうじゃねェよ」
右手をぶんぶんとふって、言葉をさえぎられる。この程度でマシンガントーク扱いすんなし。そんな喋ってないじゃん。
「んじゃ何?」
あー、だの、うー、だの言いながら首の後ろをかいたそいつは、そっぽむいて、すげえ小さな声で、
「ブライダルジュエリー。恋人に」
「……やっば。とんでもねー幸せのおすそ分け来ちゃった」
あれかな。緊張しててイライラしてんのかな。そう思うとなんか可愛くなってくんねこの態度。
へーーブライダル。恋人に。へーほーーーー。
「任せろちゃん!案内したげる!あ、背中乗る?」
「断る」
「だよね〜。恋人居んのにしないかそんなこと。んじゃ着いてきて……真後ろはやめろし、うっかり足当たるかもしれんから」
ギャルは他人の恋バナのタダ乗り大好きだからね。もちろんウチもだいすき。他人の恋路に首突っ込むと馬に蹴られるらしーけど、そもそもウチが馬だから問題なくね?マヂウチ無敵だわ。まあ今蹴られそうになったのはウチじゃなくてこの人なんだけど。真後ろは見えないから上げた足当たるかもしれんくて真面目にフツーに危険なんだわ。
かっぽかっぽ、と蹄の音が響く。その途中で地図を見せてもらったけど、少し古い地図。見つからんのも仕方ないね。
「ほらここ。ジュエリーショップ。ねーおにーさん。指輪選ぶとこ見ててもいーい?ウチもピアスみてーし」
すげー嫌そうな顔されたわ。まあ勝手に着いてこ。
いらっしゃいませー、なんて店員の声をスルーして、店内に入る。なにかお探しですか、に対して、ペアリングです、ピアスです、なんてバラバラの答え。店員の豆鉄砲食ったような顔。ちょっとウケた。
「ウチは道に迷ってたのを連れてきただけなんよ。自分のピアスついでに。……そういや名前も知らんわ」
まじウケる。まあそんなこともあるかもネ!ピアス増やしたいのはマジだし。
自分のピアスも見ながら、おにーさんの方に聞き耳を立てる。
「ダイヤモンド……と、アメトリン。指輪の内側に、石埋めるやつ……え、こんなに形あんの……」
男の人の 貴重な 混乱シーン。やば。ウケる。
「あんねーおにーさん。もし日常的につけて欲しいなら、シンプルなやつの方がいーよ。邪魔になんねーし、どんな服でも合わせられっし」
ちょっとアドバイスしちゃろ。でもこれ以上はマジで蹴られそうだし、退散退散。いくつかのピアスを比べて、しばらくして小さなリボンのピアスを手に、会計に向かう。
その横で、おにーさんは指輪を入れる箱を選んでいた。剣腕のV字リング。シンプル・イズ・ベストってやつだね。
そうなれば、外に出るタイミングも何となく合うというもので。
……見えてる地雷原に突っ込む趣味はないんだけどさ〜。そーいう危ない橋渡るのはぜんっぜん好きじゃないんだけどさ〜。でもどーーーーーしても聞きたいことってあんじゃん……。そういうことに限ってきいてみたくなっちゃったり、すんじゃん。
「ねえ、おにーさん……。受け取って貰えなかったら、どーすんの………?」
「………………さァ?」
あーーーもうダメです。聞かなきゃ良かった。そんな顔すんなし。ねえおにーさん。アンタさ、恋とか愛とか、ぜんっぜん興味無いだろ。性根はそう言う人間だろ。一人でいても問題ないどころか、ホントはそっちの方が都合いい人間だろ。
相手の人はご愁傷さま。結婚は人生の墓場だぜ。地獄の底まで真っ逆さま。多分あなたはこの顔を、これから一生見ないんだろうけどサ。
「幸せのおすそ分けどーも。ウチもう行くわ。おにーさん、すっげえベタ惚れの顔してるから」
殺したいほど愛してる、って顔。