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プロエリウム(プロエ)さん (94xgrdkj)2024/5/18 13:55 (No.105557)削除
【遊園地に出かけよう!】

───夢を見ていた。
遠い日の夢だ。
まだわたしが其処まで感情的じゃなかった頃かな?
とっても暖かい、先輩と出会ったときの夢。

「君に姿が無くて、顔を会わせられないって言うなら!」

「私が姿形を与えてあげる!」

───先輩の胸元から溢れ出て来るぽかぽかとした光。
それは優しく、実体の無いわたしを包み込んだ。
































「リアちゃん、遊園地に行かない?」

寝室から起きて人類側の情報資料を読んでいたわたしは、紙にまとめられたそれを机の上に置く。
ウルペスからの突然の提案に、何だろうと疑念を抱いた。

「ウルペスちゃん突然だね、遊興のお誘いなんて!何で遊園地に行きたいか聞いてもいいかな?」

わたしはすかさずウルペスちゃんに問いかけた。

「…その遊園地に夢の国の手がかりがあるかも知れないからだよ」

「!」

夢の国、それを聞いたわたしは真剣な眼差しになった。
それはわたしが探っていた謎の勢力の事だ。
悪魔や呪いを政府同様に抹殺する一派の一つであり、その者達の根城が分からずブラックボックス化していた。

敵対勢力の事は隙間なく探っておきたい。
後顧の憂いを無くしたいからだ。

「一応聞いておくけどね、手がかりがあると言う根拠はある?」

とは言え、その証拠がなければ信用はできない。
何せ此処まで一切の緒が無かった夢の国だ。
幾ら信用できる彼女でも歴とした証左がなければ調査に赴く気は沸かない。

「そう言うと思ったよ〜。はい、遊園地を下見した際に得た魔力の痕跡をデータ化した資料群と所属者の写真だよ」

ウルペスは紙の資料を幾つか机に置いた。
それをまじまじとわたしは見つめる。

「…」

其処には論理的な魔力データと明瞭な画像が記載されていた。
特にこの魔力の波形…分布があちこちで奇怪なこの形。
さらに夢の国所属と思わしき人物の写真。
ああ、これは間違いない———夢の国だ。

「これは本物だね!あはは☆やっぱりウルペスちゃんは賢しいね!ありがとう、見つけてくれて!」

「これくらいは造作も無いことだよ〜」

褒め称えるわたしに対してウルペスちゃんは笑みを浮かべた。

「今は私達二人しか居ないから、二人で行こうか!」

他の三人は各々別のことをやってもらっている。
今手が空いているのはわたしとウルペスちゃんだけだ。
だから二人で行くことにする。

「いいよ〜其処まで危ないところではなさそうだからね。扮装器具を持ってくるね」

そうしてわたしたちは遊園地に行くことになった。



































「ここで合ってる?ウルペスちゃん」

遊園地のジェットコースター乗り場、その裏側にわたしたちは訪れた。
人の気配は殆ど無いこの場所で、行き止まりの壁を二人揃って見つめている。

「間違いないよ〜。今、例のカードを翳すね」

ウルペスちゃんはピエロのマークが書かれた金色のカードを壁に押し当てた。
すると、壁が水が起こすような波紋が生じ、揺れ動き始めた。

「わーお。入っていいかな?」

わたしが先行して中の様子を確認しに行く。
試しに顔だけ向こう側に入れて見た。

「…当たりみたいだね。」

その先には、こちら側とは一切異なる形の、夢の国が広がっていた。
様々なアトラクションに奇異な格好をした者達。
道化となって笑顔を振りまく者など、陽気な雰囲気に満ち溢れていた。
リアは顔を壁から戻す。

「ウルペスちゃん、向こう側は確かに夢の国だったよ!よくここが分かったね!」

どうやってここを見つけ出したんだろうか?
怪訝になったわたしはウルペスちゃんに聞いてみた。

「夢の国に関する噂を徹底的に人やインターネットから探って、目星が付きそうな場所に絞って探ったら見つけたんだよ〜」

なるほど、インターネットに疎い私に代わって探してくれていたのか。
而も敵である人類側に諜報活動を行なって情報収集もしていた。
これは彼女じゃないと出来ない事だ。

「やっぱりウルペスちゃんは凄いや☆わたし一人だったら到底出来なかったかもね、本当にありがとう!」

間違いなく彼女がいなければ見つけられなかった。
これに関しては大いに感謝せざるを得ない。
そうこう話し合っていれば、二人で夢の国への突入を敢行する事にした。














































「リアちゃんの存在消去を使っているとは言え、何だか怖いね」

夢の国への侵入にあたって、今回は2つの偽装処理を施している。
一つ、人間への擬態。
これは首につけた黒いチョーカー型の機械で実施済みだ。
2つ目、これはリアがいなければ出来ないことである。

何をしているか?
結論から言えば、"二人の存在を無かったことにしている"。
リアの力は無そのものを操る。
それによって二人の存在を一時的に消すことで認知できないようにしているという手法だ。

流石に権能持ちなどの強大な存在には気付かれてしまうが、それ以下の次元にある者達には決して気付かれることはない。
尤も、この存在消去を実施している間は"他への一切の干渉"を行えないので、攻撃をしたり物を盗んだりは出来ないのだが。

「大丈夫だよウルペスちゃん、仮にバレたとしても今の私達は悪魔として認識されないから襲われる事はないと思うよ!」

二人で会話しながら、夢の国を散策する。
目的の場所はない。
今回はここがどういう場所なのかを把握できれば良い。

そんな中、わたしは一つの広間から惨憺な空気を感じ取った。
何だこの…血が腐りきったかのような腐臭は?
気になったのでそちらを覗いてみれば———

「やあ!僕はハッピーマウス!これから君達を死刑執行する幸せのネズミだよ!ア゙ハハハハ!」

其処には縄で縛られた複数の悪魔と呪いが居た。
強制的に地面へと座らされた悪魔達を見下ろすのは、全長2mほどの鼠の仮面を被った人。
笑顔をした仮面を被ったその人は、狂気的な感情を悪魔達に向けていた。

「や…止めてくれ!悪かった!ここに無断で入り込んだ俺達が悪かったから命だけはぐわぁあああー!?」

角をはやした大柄の悪魔の首を、ハッピーマウスはマチェットで跳ね飛ばした。
首から噴水のように鮮血が飛び散った。

「ひっ…!ひぃいいいー!?」

他の男の悪魔達が恐怖のあまりジタバタして逃げ出そうとする。
だがそれは叶わず、次々と首を落とされていった。
合計10体もの悪魔・呪いの亡骸が地面へと横たわる。
首が無くなった死骸は、血を湧出させて地面を赤くデコレーションした。

「観客の皆様!拍手喝采を!」

パチパチパチ、周囲の見物客達が拍手を巻き起こした。
———なにこれ?
首を切る行為が、エンターテインメントとして上演されている?
狂ってる。
確かに悪魔達は世界から非難される存在だ。
だが———これは余りにも———。

「ご清聴———ありがとうございました!」

わたし達は夢の国の探索を、そこで一旦止める事にした。
怖気づいた…と言われればそうなのだが、正確に言うならリスクが予想よりも大きかったからだ。
先程の鼠仮面…残虐なのは兎も角、感じられる闘気がただならぬものだったのだ。
あんなのが他にも居ると考えたら、見つかった際の危険度は飛躍的に上がる。
…と言うより発見されたら只じゃ済まない。
わたし達は夢の国に関する事を保留にし、家に帰るのであった。












































「グロリア博士、悪魔達のデータ蒐集終えました」

ここはとあるMAGの研究所。
そこで一人の若干の男社員と、ベテランの男社員———グロリア博士が話していた。

「ご苦労。さて…。」

グロリア博士は並べられた資料を見る。
其処には五人の悪魔のデータが記載されていた。

「我が娘達よ、数週間後に合従の試練を与えよう…ふふふふ、これから手に入る戦闘データが楽しみだ」

グロリア博士は一人、笑ったのであった。

【次回:防衛戦争をしよう!その一】
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さん (8zf1pchi)2024/5/17 23:39 (No.105508)削除
ロディが歩いているのはとある廃墟の中。

彼の主人であるリーが請け負った猫探しの依頼。

その依頼にロディも駆り出されていた。

二手に分かれて猫を探していた時、たまたまその猫が廃墟の中に入っていくのを見た。

どこをどう見ても悪魔や呪いが居そうな雰囲気が漂う廃墟。

しかし見つけたのなら入っていくしかない。

その廃墟に足を踏み入れて十数分。

どこを探せど猫はいない。

すると何処からかチリンチリン、と鈴の音が鳴る。

それは廃墟の奥の方。

禍々しいオーラがある場所。

ロディの強さでは向かうべきではない。

「失礼レディ?」

勢いよく振り向くロディ。

ロディの後ろに立っていたの白いファーのついた黒いコートに身を包んだ銀髪の青年。

物腰柔らかそうな表情を浮かべている彼はロディを見て不思議そうな顔をした。

「このような場所で貴女のような麗しいお方が一体何を…?」

まるで息をするようにロディの容姿を褒める青年にロディは眉間に皺を寄せた。

「…失礼、迷い猫を探していまして」

「なるほど迷い猫…」

ロディが冷たく突き放すように答えれば青年は口元に手を当てて考え込んでいるようだった。

ため息をつきつつ、青年を撒いて行こうかと思っていた時先程と同じく廃墟の奥から鈴の音が。

「なるほど、あの奥のようですが…」

青年もどうやら気付いているらしい。

奥から漂う禍々しいオーラに。

きっと奥に進めば悪魔か呪いがいることは確定している。

どれほどの強さかも分からないがこれほどまでのオーラ、逆に強くない方がおかしい。

「…こんな状況で申し訳ありません。1度名乗らせてもらっても?」

青年は廃墟の奥を見つめた後にロディの方を見てニコリと微笑む。

ロディがそれに頷けば青年は左手を胸に当て軽く会釈をした。

「私はアルク=スィニエーク。エスポワール魔法団の幹部をしております、どうぞお見知り置きを」

優雅に名乗った青年、アルクは顔を上げるとまた微笑んだ。

ロディはため息を漏らしつつアルクの方へ向く。

「こちらこそ、名乗るのが遅れて申し訳ありません。私はロディ・ヘルアトース、しがない執事です、よろしくお願いいたします」

こちらも優雅に自己紹介をする。

決して微笑むなどの愛想は見せないが。

ロディの自己紹介にアルクはまた微笑む。

「では早速ですがロディさん、ご協力をお願いしても?」

「もちろんです」

アルクはこの先の戦闘の事を考えてロディに協力を仰いだ。

それにロディも同調し、能力で武器を生成してみせる。

それに『おぉ』と驚嘆の声を漏らすアルク。

「どうやらレディは私が今まで出会ってきた方々の中でもずいぶんと素晴らしい方のようだ、貴女のような方に出会えて私は幸せ者ですね」

「お世辞は結構です」

アルクのお世辞を受け取ることもなくロディは先に廃墟の奥へと進んでいく。

そんなロディの態度にクスクスとアルクは笑ってからロディへと小走りで駆け寄った。
























「ズルイ…ズルイでしょう?どうして"私達"は愛して貰えなかったのに貴女は、この子は愛されるの?」

目の前で腹を裂かれ、痛みや困惑、ショックから涙を流すことしか出来ない女性に対して語りかけるピンク色の髪をした少女。

その顔は笑顔であるものの、髪にも顔にも可愛らしい服にも血がベッタリとついている。

その右手には血の着いたナイフと左手には首だけになった胎児が。

「だからね?私は殺すの。妊婦も、赤ちゃんも」

楽しそうにニヤニヤと笑う少女。

まるで遊んでいるかのようだ。

楽しそうに高笑いをするとそのまま胎児の頭もバラバラに切り刻む。

その場に残るのは肉片のみ。

母親はそれで理解した。

自分がどうなるのか、を。

「じゃあね、あっちで会えるといいね赤ちゃんに」

ニッコリと優しく笑って見せた少女はそのまま母親の心臓を一突きすると息の根を止める。

そして再び切り刻み始めるのだ。

跡形も全てなくなるまで、徹底的に。

少女の足元に残るのは大量の肉片。

初めて見た者はこれが人間であったとは思わないだろう。

「あら?いらないお客さん達…しかも、片方は欠陥品」

己に近付く2人の気配を感じ取って楽しそうに笑う少女。

『片方は欠陥品』、そう言って口の端を意地悪そうに上げた。









辺りを漂う鉄の匂い。

おそらく血であろうそれは、奥に進めば進むほど強くなっていく。

ロディは思わず服の袖で鼻を覆った。

耐え難い血の匂い、嫌なことを思い出す。

アルクも同じようにハンカチで鼻を覆った。

これ程までに濃い血の匂いはスラム街ですら経験したことがない。

きっと、自分ですら耐え難いのだからロディはもっと耐え難いのであろう、と考えそちらを見れば不快そうな顔で服の裾で鼻を覆っている。

「レディ」

アルクは自分が着ていたコートを脱ぐとロディの肩にかけた。

その行動を訝しむロディにアルクは微笑んでみせた。

「私はハンカチを持っていますので、しかし1度私が口をつけてしまったハンカチは女性には厳しいかと…」

先にハンカチをロディに渡していれば良かったのだが、生憎アルク自身が使ってしまっている。

自分の口が少なからず当たった物を女性に使わせるわけにはいかない、と考えたアルクなりの配慮であった。

「…結構です」

「いえ、そうはいきません」

「…ありがとうございます」

断ろうとしたロディに対して頑なにコートを着せるアルク。

ロディは3度目のため息をついてそれを受け入れることにした。

アルクのコートを肩にかけて、そのコートをハンカチ代わりに鼻を覆う。

先程の血の匂いは消えないものの、アルクのコートの匂いと混ざって若干調和されている。

とはいえ本当に若干であるため気持ち悪いものは気持ち悪い。

なんとか嘔吐しないように気を付けながら進めば足元に転がる何かの破片。

よく見ればそれは肉片であり、辺りを漂う酷い血の匂い、そして転がる肉片。

最悪の事態を考えてロディの顔がサッと青ざめる。

「…レディ!」

顔を上げればピンク色の髪に可愛らしい洋服に身を包んだ少女がぷかぷかと宙に浮かんでいた。

見ただけでわかる、その少女がこの肉片を作り出した犯人であり、呪いであるということが。

「こんにちはお呼びでない来訪者様達?私はマリン、どうぞよろしくね」

にこやかに自己紹介をする少女の名はマリン。

だがその言葉はどこか鋭く、2人を歓迎していないのは丸わかりだ。

「あら…マーキングのつもり?男ってめんどくさいのね、自分の所有物です〜って見せ付けないと死ぬのかしら」

ロディにかけてあるコート、どう見ても男物でありそれが隣に立っているアルクの物であるとマリンも気付いたのだろう。

つまらなそうな顔で嫌味ったらしく語るマリン。

「いえ、この場のあまりにも不快な匂いが麗しい彼女に移ってはなりませんから」

アルクも嫌味ったらしく返す。

例えどんなに美しい少女であっても呪いであれば容赦はしない。

マリンは口の端を意地悪く上げて楽しそうな顔をした。

「その欠陥品が麗しい?冗談じゃないわ」

その言葉にロディの肩が跳ねる。

『欠陥品』、それは果たして何を意味するのか。

アルクには分からないがロディには心当たりがあるらしい。

「やめなさい、どんな人であれど欠陥品などと呼ばれる筋合いはない」

「男とも女とも決められないソイツが??」

ロディを庇うように背中で隠してアルクがマリンに苦言を呈す。

だがマリンは意地悪そうな顔をしてロディが気にしていることを指摘する。

その言葉にロディを女だと思っていたアルクが驚いた表情をする。

「今は女なのね?普段は男のくせに」

ニヤニヤと笑うマリンをロディが睨みつけるもののマリンは何処吹く風。

気にしていない様子でぷかぷかと浮いてはクルクル回る。

「知らないとでも思ったぁ?色んな人を見てるのよ、性別は変わってもその瞳は変えられないのよ?」

動揺が隠せないロディを見てマリンは楽しそうに笑う。

「その瞳…本当に好きなのね?それなのに隠して生きるなんて…あぁ、なんて哀れなことでしょう」

楽しそうにクスクス笑うマリンに動揺したまま二の句が告げない。

「……いい加減になさい、余程死にたいようだ」

アルクが殺気の籠った瞳でマリンを睨みつける。

能力で武器を生成し構えるアルク、立て続けに能力で自身を強化し、氷のゴーレムを作り出す。

「命令を下す、アレを殺せ」

先程までロディにかけていた優しい声色ではなく、鋭く突き刺すような冷たく低い声色。

本気でマリンを殺すつもりらしい。

だが殺気を向けられようとマリンはどこか楽しそうに笑うだけ。

「悲しい悲しい、私は嘘なんてついてないわ。全て本当のことだもの!」

悲しいと嘆くマリンだがその顔はニヤニヤとしているまま。

全く悲しんでおらずむしろ楽しんでいるようだ。

ゴーレムは腕を振り回したり、両手で挟んもうとしたり、と様々な攻撃を繰り出しているがマリンはぷかぷかと浮いて華麗に逃げ回る。

「あははっ!どうしたの?私を殺すんじゃないの?…あぁ、そこにお荷物がいるから動けないのね可哀想に」

楽しそうに笑ってアルクとロディを挑発する。

それを聞いて動揺していたロディも覚悟を決めたようだ。

「……アルクさん、これをあのゴーレムに」

「命令を下す、装備せよ」

ロディは大きな斧を作り出すとアルクに声をかける。

アルクはそれに頷きゴーレムへ命令を出した。

ゴーレムも、アルクも、そしてロディも武器を装備しマリンへと殺気を向ける。

それを見て心底楽しそうに笑うマリン。

狂ってしまっているのか、嬉しそうに『うふふ』と笑うその姿は無邪気な年相応の少女のように見えてしまう。

「やぁね、価値のない人間共がいくら頑張ろうと無意味なのよ?」

楽しそうに笑ったマリンが炎の渦を魔法で作り出し、アルクの方へ向ける。

アルクは咄嗟に避けつつマリンへ斬り掛かるがマリンは再びぷかぷかと浮いて避けてしまう。

何度も何度も斬りかかっては避けられ、を繰り返していた時、マリンの背をロディが取った。

挟み撃ちである。

アルクと遊ぶことに楽しむばかりにマリンはロディのことを忘れてしまっていた。

アルクとロディがそれぞれマリンの胸から腹にかけてと背へ斬り掛かると避けることも出来ずに血が舞う。

その瞬間、声にもならない恐怖がロディを襲った。

先程まで楽しそうに笑っていたマリンの顔。

それが今では殺気の籠った、般若のような顔に変わっていた。

「あーあ…あーあ!!!!私を、私達を傷付けたのね、私が守ってきたこの子を傷付けたわねッ!!?!?!?!?」

思わず呆気に取られるロディとアルク。

「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない」

まるで譫言のように何度も呟くマリンにロディは恐怖が勝り、アルクも背中に冷や汗が流れる。

「邪魔よッッッッッ!!!!!!!!!!」

未だマリンを殺す為に動き続けるゴーレムの方へ手を向けると炎を出して溶かしてしまう。

あれ程までに巨大なゴーレムは炎の威力には逆らえずにあっという間に溶けてしまう。

ゴーレムがいた場所にはロディが作り出した巨大な斧だけが残った。

「大事な大事な私の宝物…それを傷つけるなんてッッッッ!!!!!!ジョーダンじゃないわッッッ!!絶対に許さないッッッ!!!!」

叫んで怒って、ナイフを取り出すとマリンも戦闘態勢に入る。

アルクとロディも再び武器を握り直す。

背から腹から血を流し怒り狂うマリン。

可愛らしい少女の面影はどこへやら、今ではただの呪いという化け物でしかない。

マリンはアルクに突進する勢いで斬り掛かる。

アルクはなんとか防御することが出来たものの、切り返すことは出来ない。

ロディが再びマリンの背を狙うものの、怒り狂ったマリンは抜かりない。

「邪魔をしないでよッッッ!!!!!!」

叫ぶとロディに向けて左手をかざすと突風を出す。

立っているのがやっとなほどの突風。

動くことも避けることも出来ない。

きっと今この状態で動けば吹き飛ばされてしまうから。

かなり広いこの廃墟内で吹き飛ばされてしまえば戻ってくるのに時間がかかる。

その間にアルクが死んでしまっていたら、きっとロディは罪悪感に駆られ耐えられない。

動かないようにするため、文字通り邪魔をしないようにされていた。

変わらず攻防を続けるマリンとアルク。

アルクが押されており、後退りながらそのナイフを受け続ける。

アルクは機会を伺っていた、能力を使うその機会を。

「アンタなんかにッ!!!!!」

マリンが両手でナイフを掴み大きく振りかぶったその時、アルクは能力を発動させた。

マリンへ向けて氷の柱を作り出した。

だがどうだ、マリンはそれを避けてアルクを見つめる。

その顔は目に光が入らず、笑顔が消え去ったただ憤っている顔。

恐ろしい程に美しいその顔で見つめられるとアルクも恐怖に駆られ動けなくなる。

「…て、どうして…?"私達"は愛されたかったのよ、普通に生きたかったのよ」

小さく呟くように、されどアルクに聞こえるように語られたその言葉。

「どうしてパパもママも"私達"を愛してくれなかったの」

泣きそうな子供の声。

「贅沢なんて望まないから、貧乏でも良かったから、愛して欲しかっただけなのに」

両親に愛されなかった子供。

それはアルクもロディも経験がある。

両親に捨てられたアルクとその弟。

両親に自分自身を否定され続けたロディ。

どちらもマリンのその言葉に心が揺さぶられた。

「愛して欲しいと思うことの何がいけないの!!」

泣きそうな顔をしているマリン。

その時アルクは気付いた。

"愛情に飢えた幼い子供のまま"であることを。

幼いから面白いと思うことがあれば楽しむ。

幼いから周りをちゃんと見ることが出来ない。

幼いから怒って癇癪を起こす。

幼いだけの呪い。

愛情に飢えた呪い。

アルクの中で初めて呪いに対して慈悲が生まれた。

マリンはロディを縛っていた突風を消す。

その瞬間、ずっと耐えていたせいかロディは膝から崩れ落ちた。

「"私達"だってもっと生きていたかったの!!もっと幸せになりたかったの!!」

今にも泣き出してしまいそうな少女の声。

まるで嘘をついているようには見えなかった。



だから、油断してしまった。

アルクとロディの肩から力が抜けているのを確認するとマリンは口の端をニヤリと上げた。

「…やぁね、すぐ騙されるんだもの」

アルクの腹をナイフで3回突いたあと、素早くロディの方へ向かい胸を2回刺す。

動けなかった、油断してしまったから。

慈悲を抱いてしまったから。

「あぁ…許せない許せない…」

マリンはぷかぷかと浮いていたかと思うと足元に散らばっている肉片を掴むと口に放り込む。

するとどうだ、マリンの怪我がみるみるうちに治っていく。

ニヤリと笑ってマリンは言った。

「"あなた達は違うもの"」

そのまま『キャハハっ』と笑うとどこかへ浮いて行ってしまう。


アルクはその場に座り込むと刺された腹を手で抑える。

だが自分の腹を治すつもりはないらしく、ロディの方へと手をかざす。

『コンジェラシオン』。

アルクが唯一使えた治癒魔法だった。

それをロディへ使う。

どうか、ロディだけでも逃げられるように、と。

少し段階は踏んでしまうが完治はするだろう。

このまま死んだら弟に怒られるだろうか、悲しませるだろうか、無念だな、と考える。

苦しい息の中、痛みに呻いた。




胸を刺されたロディ。

まるでこんなものいらないでしょ?というような顔だった。

痛い、苦しい、息が出来ない。

このまま死んでしまうのか、嫌だ、嫌だ、まだ生きていたい。

涙が溢れるが拭うことも出来ない。

怖い、助けて、お兄ちゃん。

この場にいない相手を求むロディ。

声も出せずにいると言うのに誰が助けてくれようか。

ヤダヤダ、と泣いていると段々と痛みが引いていく。

どうして、なんで。

考えつくのは少し離れた場所にいるアルク。

アルクは座り込んだまま動かない。

まさか、死んだのか?

ダメだ、そんなの許されない。

『fidélité éternelle』。

ロディが唯一使う事の出来る治癒能力。

瀕死のアルクを完全に治すことは出来ないかもしれない。

それでも一命が取り留められるなら、使わない手はない。

まだ動けはしないが能力はちゃんと使えたはず。

だがアルクは未だ動かない。

次第と足や腕に力が入るようになってくると、崩れ落ちた体勢から立ち上がってアルクの元へ行く。

アルクの容態の確認をして肩を軽く揺する。

息はしているが意識はないようだ。

いくら回復し始めているとはいえ今のロディではアルクを担いで廃墟の外に出る程の力はない。

どうしよう、どうしたら救える。

そんなことを考えていると鈴の音が聞こえた。

「あ、あの。誰かいらっしゃいませんか」

怯えている少年のような声。

鈴と共に聞こえたその声にロディは警戒する。

いまさっきまで戦っていた呪い。

愛情に飢えた子供を演出して同情を誘っていた。

子供型の呪いや悪魔に多いやり方だろう。

もし傍に来ているであろう少年が再び呪いや悪魔であったら?

今度こそ2人は生きて帰れない。

警戒しつつ、いつでもアルクにバリアが張れるように身構えていると現れたのは白髪の少年。

その腕の中には探していた迷い猫もいる。

2人の姿を見ると慌てたような顔をする少年。

「ど、どうしたの!?血出てるよ!?ま、待ってねお兄ちゃんが治すから!!!」

少年は2人に近付くと手をかざして能力を使う。

するとアルクの怪我は瞬く間に治っていく。

それでも意識は戻らないようだ。

「お姉さんも、じっとしててね」

アルクの怪我が治れば少年は今度はロディの方へ向き直る。

少年の治癒能力は目を見張るもので、一瞬のうちにロディの怪我も治ってしまう。

少年はニコッと笑ってみせると片腕で抱いていた猫を両腕で抱き直した。

「この猫ちゃんが教えてくれたんだよ、よかったねぇお兄ちゃんが傍にいて」

どうやら少年は自分のことを『お兄ちゃん』と呼ぶらしい。

ロディの所属している組織にはそんな少年はいなかった。

別の組織の子供だろうか。

「…助かりました、ありがとうございます」

微笑んで見せれば少年は『どういたしまして』と笑う。

ロディはアルクのコートをアルクの足元へとかけてやる。

アルクは未だ起きないが、2人の元へバリアを貼ってやると立ち上がる。

「助けを呼んできます、少々お待ちください」

もし、またあの呪いが戻ってきたらいけないから。

少しは時間が稼げるはずだから。

しっかりとした足取り廃墟を出るとアルクを運ぶための助けを求めて人混みの方へと歩いていった。​
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さん (8zuyld7s)2024/5/16 23:05 (No.105395)削除
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あァ゙ァ゙ッッ゙!!!

怒り。感情に任せた叫び声。

ガシャン!

物が落ちる音。

きっと部屋の中は悲惨だね、

濃いピンク色の証明が照らす部屋。
ただでさえ散らかった部屋。

まるで心を表しているようで…

汚い床に足された割れた花瓶、生けてあった花は花弁が毟られ、水びたし。
切り裂かれた白い髪の少年少女の写真。
ナイフの刺さったクッションから飛び散る白い羽。
ツギハギだらけのぬいぐるみは水色の目玉が取れて転がっている。

そう水色。青いけど薄く透き通った水のような色。

アタシを恐怖の瞳で見る水色。

なにかを思い出して泣く水色。

蕩ける水色。

堕ちてきた水色。

忘れられない水色。

ピンク色の世界に落とされた水色は
とても純情で、純心で…
ピンクにとってはとても愛らしい存在だった

存在だったのに、

ダッタノニナゼ?

ドウシテ

どうして!あの子は自分の手じゃなくて

あんなオウジサマの元へ?

初恋が叶うなんてそんなの御伽噺

夢のまた夢でしょ

聞いただけで吐き気のする御伽噺

そんな御伽噺は童話じゃないの。

ボロボロになった部屋と、ベッドの上の彼女。
キャミソールにショーツだけで、1点をボーッと見つめている

手元の携帯は誰かとのトーク画面のようで
ピコン、と独特の通知音が鳴れば返信が返って来たようだ。

だけど彼女は見る素振りも無い。ただただ、壁を見ている。意味もない剥がれかけのポスターや、なにも入っていない写真立ての飾られた壁を。

少しするとベッドを照らすように光が入る。

ドアが開いたみたい。
誰も入ってくるなって、全員を追い返していたのに入って来た。いや、呼んだのだ。

『今日は一段と荒れているじゃないかkitten?』

アノコと同じ水色。目障りなのに、呼び出したのは何故だろうね。

「ねぇDr.?アタシは間違って無かったノ、だってアノコも喜んで、ヨガって、喘いで、ハートを浮かべてサ」

黙って頷きながらドクターと呼ばれた男は部屋を片付ける。なにも言わずに、ただただ耳を傾ける。

「ソレなのにアノコは白雪姫のオウジサマを選ンダ。夢から覚めた。長いナガイ眠りから。数千年の恋だって。なんてロマンチック……
…ンな事言う訳ねェだろ!?なんだよ、数千年の恋って!そんな手出すのが遅いムッツリ男に取られたのムガつく!」

別に自分の物でも無かったのに被害妄想も甚だしいところだ

そうだね、と相槌をうちながらDr.は勝手に彼女の本を開いて【白雪姫】から《7人の小人》を取り出して掃除を手伝ってもらっている。

「白い雪の精ダッタ。冬の花。小さなスノードロップ。踏み潰してしまぇばヨカッタね!!??」

思い出して微笑み、それに怒り出し、泣き叫びだす、なんとも情緒不安定な十面相。

ひと泣きすれば「マダ居たの。」なんて自分が呼んでおいて酷い言いようだ
それに対して顔色変えずに近づくDr.は彼女の目にライトを当てたり舌に棒を当てたりお医者ごっこ

『久しぶりに過剰摂取してるね、落ち着いてたのに』

浮かせたカルテに状態を記入なんてしてみて

「全部あの政府が悪いんだヨ!こんなコトなら居場所奪う為に動画をバラ撒くんだった」

それをつまらないそうにクッションを抱いて睨む

『それは怖い怖い』

「ア゙ァ゙ークッソ!思い出すだけで頭痛い、ムリ、イライラする!!ねぇDr.!!!」

ピンキーは手を出して相手に何かを強請る

『それ以上は危ないし怒られるんじゃないの』

一応止める。主治医だし。

「どうでもいいの!ピンキーがオネガイしたらDr.はナンデモ叶えるんデショ!?…イチゴミルクに溺れたのはイチゴか」

その言葉を聞けば眼鏡をカチャリと直すDr.

『それともミルクか』

そう言って渡したのは小さな小瓶に入ったクスリ。
もちろん医薬品ではナイ。

「アハ、キャンディ、ラムネ、コンペートウ」

その瓶を受け取れば無邪気に笑う。彼女には光る宝石のように見えているよう。
幻覚症状の中。クルクルと回る視界と、2つに重なる小さな小瓶。私を飲んで、私を食べて。
大事な大事な安定剤。

『また様子見に来るからね』

そう言って部屋を出たDr.は口元に弧を描いて軽快に歩いて行く。
こいつもまた悪魔。外道で非道。 そして利己主義。
閉まっていた羽を伸ばして自分の薬学室に戻る。

普通じゃないのだ、誰も彼も。

普通なんて無くて、異常が普通のこの世界。

だから壊シテも問題無いデショ?
幸せを不幸せに。不幸せを幸せに。

また忘れた頃に顔出すからネ。
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さん (8zf1pchi)2024/5/16 12:25 (No.105351)削除
産まれた頃から灯火 玖々莉は実母の着せ替え人形であった。

実母は玖々莉を父親にすら触らせず、使用人にすら触らせず、ただ1人で育てていた。

それは汚い手が綺麗なお人形さんを汚さないようにするため。

実母は玖々莉を人ではなく"人形"として見ていた。

何がきっかけかは分からない、元々壊れていたのかもしれない。

だが長女を孤児院から引き取った時も、次女が生まれた時もそんな素振りは見せていなかった。

だが三女である玖々莉が産まれた瞬間、おかかしくなってしまった。

玖々莉は物心つく前から実母の言いなり。

喋ることは許されず、自分の意思で動くことも許されず。

食事や排泄は全て実母の管理下の元。

イヤイヤ期を迎えた玖々莉を実母は骨が折れるほど殴って思い通りにさせた。

幼いながらに実母への恐怖心で玖々莉は、ただの人形と化していた。

そんな生活を続けていればいつの間にかそれが当たり前になり、恐怖心すらも消えていった。

だって言いなりになっていれば怒られないんだから。

実母の言う通りの行動をしていれば、感情も持たない喋りもしない自分の意思では動けない操り人形の出来上がり。

実母は玖々莉を可愛く着飾ると色んな人間に見せびらかした。

伴侶にも、玖々莉の姉妹にも、妾にも妾の子供にも、使用人にも。

だが絶対に触らせなかった。

触ろうものならば怒鳴って泣いて暴力を振るって。

大切なお人形さんだから、と大きな屋敷の中で最も端の方にある部屋の中に閉じ込めてしまっていた。

そんなお人形さんに近付く一つの影。

玖々莉の異母弟である阿玖里だった。







阿玖里は幼い頃からの友人になんとなく家の事を話した。

すると『ならば唆してしまえば良かろう』と言われた。

『元より操り人形、頼めば行動に移すやもしれぬぞ』

ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべる相手を見る阿玖里は肩を竦めた。

『それが出来るなら苦労しないけど?そもそも近付けないのにさ』

それは事実であった。

玖々莉の実母は出掛ける時ですら玖々莉の世話を誰にもさせなかった。

部屋には鍵を閉めて出ていく。

近付こうものならば見張りを頼まれた使用人が部屋の前に立っており、玖々莉の実母に連絡が入る。

それを聞いてその相手は変わらずニヤニヤと笑う。

『これを使えば良いじゃろ。くれてやる好きに使え』

渡された小さな包みには薬らしきものが。

相手曰く睡眠薬と記憶障害をもたらす作用のある薬草を混ぜた物らしい。

滅多に手に入らない代物、これを阿玖里に渡すということはそういう事。

『…何が目的』

阿玖里は訝しんで相手を見るが今度は相手が肩を竦めた。

『何も?ただ面白そうじゃな、と。…妾はそういう人間だぞ』

ニヤニヤと笑ったまま告げる相手、確かにそういう性格はしていた。

阿玖里はその小包を素直に受け取るとその場を離れる。

相手は楽しそうにニヤニヤと笑ったまま、阿玖里の背中を見ていた。







阿玖里が玖々莉の部屋の前まで来ればやはり使用人に近付くことを止められる。

その使用人達に貰った小包の中身を溶かした水を吹きかけた。

と、すぐに使用人達は倒れてしまいその薬の効果が恐ろしいものであると気付かされた。

阿玖里は付けていたヘアピンを真っ直ぐにして鍵穴をカチャカチャと弄る。

数十秒後、カチャ、という音ともに鍵が外れた。

鍵を受け止めて扉を開ければ、綺麗に着飾られた玖々莉が正座のまま部屋の真ん中に座らせられている。

入ってきた阿玖里には目もくれずただ床を見つめている。

阿玖里は近付き、しゃがみこんで玖々莉の顔を覗く。

あまりにも無表情すぎて恐ろしく感じるほど美しいその顔を見て阿玖里は納得した。

似ていたのだ、阿玖里の実姉、紅葉に。

父親譲りの髪色も、そのつり目も。


玖々莉の実母は羨ましかった。

妾が最初に子を孕み産んだこと。

その子が、幼い頃からあまりにも美しい見た目をしていたこと。

父親譲りの綺麗な髪も瞳も、母親譲りの愛らしくも美しいその顔も、鈴が転がるようなその声色も。

全てが全て、羨ましかった。

だから必死に伴侶を誘った。

自分も、紅葉のような美しく愛らしい人形のような子が欲しかったから。

やっと授かり産んだ子は、髪色と瞳の色こそ父親に似たが、顔は自分そっくりのタレ目。

どうしても許せなかった。

これじゃ可愛くない、これじゃあの美しい子には勝てない。

再び伴侶を必死に誘った。

そして授かり産まれた子供は、紅葉に似た美しい子。

やっと、やっと授かった。

やっと私のお人形さんが産まれた。

そして玖々莉の実母は狂った。

紅葉の生き写しとして育て始めた。

だがやはり、母親が変わればかなり変わる。

声は美しいものの紅葉ほどではない。

喋り方も立ち振る舞いは躾ればなんとかなった。

だが声ばかりは変えられない。

どう頑張っても、矯正しても声は中性的な声のまま。

美しい鈴が転がるような、紅葉の声にはならなかった。

だから喋ることを禁じた。

見た目だけなら似たのに、声だけ似ないなんて信じられなくて、自分の理想を壊したくなくて。


そんな玖々莉を見た阿玖里は納得と同時に酷く憤った。

自分がイビリ抜いて心を壊した姉を、優しく麗しい姉を、自分の娘で再現するのか、と。

あぁ、そうだ。

見た目こそ似ている。

見た目"だけ"な。

だがどうだ、笑いもしなければ喋りもしない。

動きもしないこの娘が姉であると???

姉の代わりになるとでも????

ふざけているのか。

そんなこと許されるわけない。

自分で壊しておきながら、自分の娘で再現しようなど。

阿玖里は憤ったのを隠さないまま、玖々莉に話しかける。

『ねぇ、お前喋れんの?』

『…』

だが玖々莉は喋らない。

実母にそう言いつけられていたから。

『じゃあ喋んなくていいから心の中で考えてくんない?』

考える、考えるとは?

と玖々莉が考えていると

『それだけど』

阿玖里の言葉に玖々莉はなぜわかったのか、とまた考える。

『わかるけど。だって俺そういう種族だし』

平然と告げられればそれが目の前にいる彼の力なのか、と玖々莉は納得した。

『ねぇ、俺の言うこと聞ける?』

目の前にいる同い年ぐらいの少年の言葉。

それは母親に幾度となく言われ続けたもの。

『お母さんの言うことを聞けないの!?』。

幼い頃からずっと言われ続けた言葉。

聞けない訳では無い。

『…じゃあ頼みたいことがあるんだけど』

じっと、玖々莉を見つめて阿玖里は言う。

そんな阿玖里の瞳を玖々莉も見詰め返した。

『お前のお母さん、お前が殺してよ』























ある日の朝。

いつも通り実母の着せ替え人形にされる玖々莉。

実母が服を選ぶために玖々莉から背を向けたその一瞬。

玖々莉は初めて実母の許可なく動いた。

音を立てずに、実母に気付かれないように移動する。

玖々莉は部屋に飾ってある刀を手に取った。

まずは声帯を切る。

実母は漸く玖々莉が許可なしに動いていることに気付いたが注意ができる訳もなく。

痛みに声を上げることも、助けを呼ぶことも出来ない。

そんな実母を見下ろしながら玖々莉は刀を構える。

そして、心臓を一突き。

明確に殺すため。

そしてその後は一心不乱に体に刀を突き立て続ける。

返り血が飛びちろうが気にしない。

服や髪、顔にかかろうが気にしない。

だって言いつけだから。

言われた通りにしなければまた怒られるから。

あれほど忙しく回っていた口も、少し気に食わないことがあるだけで醜く釣り上がるその瞳も、今ではもう動かくことはない。

力無く血塗れのまま畳の上に倒れ込んでいる母親の遺体を見ても、玖々莉は何も思わなかった。

そうしているうちに、あまりにも物音がしない事に不審に思った使用人の1人が扉を開ける。

するとどうだろう。

そこには血塗れで倒れている玖々莉の実母と、血塗れで立っている玖々莉がいる。

使用人は思わず悲鳴をあげた。

むしろこの状態で悲鳴をあげない方がおかしいだろう。

悲鳴を聞いた他の使用人達や更に玖々莉の実父に義姉まで現れる。

その中に阿玖里はいない。

皆が玖々莉の行動に警戒していても、玖々莉は何も思わずただ遺体となった実母を見つめる。

遺体を見て可哀想だとも、今までの恨み辛みも何も思わない。

玖々莉の中は無で出来ている。

なぜなら、実母がそう作り上げたのだから。

情を持たない。

自我もない。

何も考えてはならない。

言われた通りに動くだけ。

言われないことはしてはいけない。

許可なく動くことは許されない。

阿玖里が命令したのは殺すところまで。

その後こう動け、とは言われなかった。

だから玖々莉は動かない。

玖々莉の実の姉である美玖理が追いつくも、すぐに玖蛇に抱きしめられ、この惨状が見えないようにされる。

瞬きもしているのかわからないほど、人が集まろうと微動だにしない玖々莉を見て父親が動いた。

玖々莉の元へ警戒しつつ近付いて刀を玖々莉の手から抜き取る。

こちらへの敵意が感じられないと分かると父親は迅速に使用人達に対して指示を出した。

ある者は遺体を運ぶための担架を。

ある者は血を拭くためのタオルを。

そして、養女と玖々莉の姉である美玖理には部屋に戻るように告げた。

養女は最後まで玖々莉を見せないように美玖理を連れていこうとしたが、美玖理には見えてしまった。

血塗れで無表情のまま立っている玖々莉が。

最初はそれが何を意味するのか分からなかった美玖理だが、部屋に戻った後に養女から

『お母様が亡くなったのよ』

と聞かされて、真逆の出来事を『玖々莉は被害者なのだ』と導き出していた。

去って行った娘二人の背を見送り父親は玖々莉の方を見る。

未だ何を考えているのかわからない顔で遺体を見つめる玖々莉。

父親が何をあったのか聞いても反応をしない。

そのうちに阿玖里が帰ってきた。

阿玖里は家の中がドタバタしている事に気がつくと誰にもバレないように口の端を意地悪く上げた。

『父様、どうし…』

さも、今知りましたよ、という態度で父親へ話しかけ、部屋の中の惨状を見て絶句する。

その全てを知っていながら、まるでこの惨状に心から驚いているような顔をする。

『阿玖里、部屋に戻っていなさい』

『でも父様!母上が!!』

『阿玖里』

『…わかりました』

義理の母を心配する優しい息子、それを見事に演じきってみせると阿玖里は部屋へと戻って行った。

なにを聞いても喋らない、動かない玖々莉。

父親はその場で使用人達に命令し、濡れタオルや新しい服を用意させた。

血まみれのままでは玖々莉も気持ち悪いだろう、という父親なりの気遣いだった。

生まれてから今までずっと、母親の言いなりだった玖々莉。

ずっと操り人形にされていた玖々莉。

鬱憤が溜まってしまってもしょうがない、甘すぎる父親の考えた結論だった。

使用人達に玖々莉についた血を全て拭き取るように、そして着替えさせるように告げた。

年頃の娘の姿を見ないように、かつて妻であった女性の遺体を持ってきた担架に乗せる。

そして、自分が主導になり遺体を運んだ。























あれから数年、玖々莉は普通に喋ることも、己の意思で動くことも出来るようになっていた。

今日も姉弟と鍛錬を重ねる。

姉弟の中では一番の技術力を持ち合わせる玖々莉。

父ですら玖々莉の剣術には太刀打ち出来ない程である。

『おねぇ、ちょっといい?』

鍛錬を終え、空腹に耐えながら汗を流す為にシャワールームへと向かう玖々莉を阿玖里が引き止めた。

『なんだ?』

玖々莉が返事をすれば阿玖里は何も言わずに合図を送る。

それを見て玖々莉の肩に力が入る。

まるで、緊張しているかのように。

その姿を見て阿玖里は『おやつ楽しみだね』とだけ残しその場を去った。




真夜中の3時を回った頃、玖々莉は人目のつかないような場所に1人で現れた。

『遅くない?俺3時までには来いって言ったよね』

イラついた様子の阿玖里がその場にいた。

周りには他に4人の気配がある。

だがその4人は2人の会話を聞くだけらしく、姿は表さない。

『…すまない』

申し訳なさそうに謝る玖々莉。

その様子にイラついたのか『チッ』と舌打ちをする阿玖里。

『………てかさぁ』

阿玖里は玖々莉に近付いて大股一歩、距離が空いたところで大きく踏み込むとどうやって出したのか刀を取り出して玖々莉の腹を貫く。

痛みと驚きで動けず固まる玖々莉。

声すら出せずに貫かれた腹を、刀を見る。

『お前最近ウザイよ、姉さんの真似しろって言ったのは俺だけどさぁ…』

刀を引き抜いてクルクルと回す阿玖里。

吐血までして、玖々莉は貫かれた腹を手で覆う。

だが血が止まることは当然ない。

『限度ってものがあるよね。ねぇ、聞いてる?』

年々増していく阿玖里の狂気度。

今まで暴言を吐かれたことは何度もあった。

だがここまでされたことはない。

恐怖よりも驚きが勝る。

ここまで酷くなっていたのか、と。

死ぬことに躊躇いはない、何れ訪れるものだから。

だが捨てられるのは恐ろしい。

価値がないと言われたら、要らないと言われたら、きっと生きていけなくなる。

何も答えない玖々莉に痺れを切らしたのか、覆っていた手ごとまた腹に刀を突き刺す。

『あぁ、ズレちゃった。ごめんね?』

刺さったのは先程とは違う場所。

痛みに呻くことも出来ずに涙が溢れる玖々莉。

そんな玖々莉を見て悪びれもなく謝る阿玖里。

再び刀を引き抜けば、刃で玖々莉の顎を掬う。

その顔はどこか楽しそうだった。

『振る舞いには気を付けてよ、ほんと』

次は無いからね、と言葉を残して隠れている4人と共にその場を去る阿玖里。

怪我は治してもらえない、自分で治すしかない。

得意でもない魔法を使ってゆっくりと怪我を治していく。

死んでしまったら楽だろう、だが阿玖里がそれを命令していない。

ならば生きるしかいない。

傷口を軽く塞ぐと立ち上がる。

フラついたままゆっくりと歩いてその場を去る。

痛みはまだ残っている、しばらくこの痛みは消えないだろう。

誰にも気付かれず部屋に戻れればいいが、獣人である姉を誤魔化せるか、誤魔化せなかったら悪魔や呪いに罪を擦り付けるか。

痛みに苦しみ、言い訳を考えながら帰路についた。​
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グラサンさん (92cyh0px)2024/5/12 21:01 (No.105098)削除
「お兄様……お兄様!」

可愛い妹

優しい妹

世間知らずで明るくてかけがえの無い大切な妹

「どうした?」

そうなれない笑顔を振りまいてシロに尋ねる。ぎこちない笑顔。
昔からクロは笑顔が苦手だった。

「んーー…お母様とお父様はどんな人だったのか気になったんです。お兄様は知ってますか?」

それを聞いて一瞬だけ顔が曇るけどすぐに元に戻す、優しく頭を撫でながら

「ごめんな。俺も覚えてねぇんだ。」

と。嘘だ。覚えている。ハッキリと。
そしてその記憶をシロから消したのは自分だ。

あの記憶なんてシロには必要ないから。

あのおかしなヤツらの記憶なんていらないから。









おかしな家だった。
いや元々おかしな家だったけど……それが明らかに目に見えて狂い始めたのは妹がシロが生まれてからだった。

生まれた場所はおかしな宗教を開いている家だった。カルト宗教……個人的な宗教法人。まぁ世間でたまに見るような、よくある話だと思ってくれて構わない。

自分は浮気相手との子供だった
そのせいで嫌われ者だったがある程度の衣食住は確保出来たし、男という理由で置いて貰えていたから特段不満もなかった
子供がいなかったから、自分も跡取りにするつもりだったのだろう

なんの意味もない幼少期だった
可もなく不可もなく
けどそれが崩れたのは妹が生まれた時だった

なんでって?
妹はシロはとてつもない運を持っていたから
神に愛されたとしか思えない極運を

それからどうなったか?
それはもう蝶よ花よとシロは祭り上げられたよ
まるでシロ自身が神様であるかのようにね!

自分?自分は段々と存在を忘れたかのように放っておかれたさ
そりゃ当然荒れるよね
元々親にもなににも興味なかったから良かったけど
シロにも興味なかった

けどシロは違った

「お兄しゃま!みてみて!四つ葉のクローバーでしゅ!」

と何度も何度も懲りずに話しかけてきた

自分に話しかけなくともチヤホヤしてくれる親と信者がいるくせに
そんなシロが嫌いでムカついて……守らないとそう思ってた

シロの周りにはいつも色んな人がいた
自分とは違って

「シロ様!!シロ様……どうか…どうか我が子を助けてください!!」

「シロ様……シロ様……!どうかどうか…」

「シロ様ありがとうございます……貴方様のおかげで借金を返すことができました!!」

気持ち悪くて仕方なかった
シロがなんだって言う
シロの本当を知らないくせに

親も親だ
シロを利用して金儲けをする

「これはシロ様のご加護が入った特別なお守りです。今なら信者の皆様には特別に10万円でお売りいたしましょう!」

そんな嘘っぱちを吹いて、それに騙されるバカも嫌いだった

自分も自分でクソだったけど
親が嫌いで
家が嫌いで
外に出て
夜遊びをしていたから
その間だけは何もかもを忘れられたから

それでも夜遅くに帰ってくる自分を

「お兄様!おかえりなさい!お身体は大丈夫ですか?」

とニコッと笑って出迎えるシロ
バカにしか見なかった
そしてバカなのは自分だった

浸りと落ちるその赤い血に気づかなかったから

ある日のこと
いつも通り夜遊びに行った時に不思議な女の人に出会った

キマイラの女の人
名前は聞けなかったが…いい人だった
その日はなんだかとてもイラついていて
なにかにあたりたくてしかたなかった

そんな時に話しかけられて

「少年ー?そんな顔してると幸せがにげちゃうぞ?」



「なら…幸せにしてくれんの?なぁお姉さん?」

なんてけっとからかうように嘲笑うように言って1度遊んだのをよく覚えている

きっとお姉さんはそのつもりはなかったと思うが……自分の我儘に答えてくれたのだろうね

優しい人だ

数度遊んではんば友人のような関係になり……ある日言われた

「大切なもんは見失っちゃいけないぞ?案外近くにあって……直ぐに消えちゃうんだからねぇ……絶対手放すなよ。それを。後悔しちゃうからさ。」

その言葉の意味を理解するのには
そう時間はかからなかった


ある日のことだ
家を歩いていた時にシロが少し暗そうな顔をしていた
珍しい…なんか辛気臭いからどうしたのかと聞いてみると

「……お兄様。もうすぐ私は18となります。そして…神様への捧げ物として私は行かねばならないらしいです。」

なんて苦笑いをして答える

「お父様は名誉なことだと…私にしかできぬ役目も申しておりました。私頑張りますね!」

意味がわからなかった
神への捧げ物?そんなものありはしないというのに
どうしてそうやって笑っていられるんだ

どうして?なぜ?頭を中がグルグルとして仕方なかった

その後…気になってはいなかったいや気になってはいた
それでも目を逸らして見なかったシロの様子を注視するようになった

……おかしい
なんでシロはあんなに血の気がない
思えば違和感があった
毎日うまい飯を食ってるはずなのにって

その答えは簡単だった……息を殺してシロの部屋を覗いていると父親がシロに対して何かをしていた

目を疑った
シロの血を抜いていたんだ

シロは涙を浮かべてこらえていた

そういえば…親が信者に向けて売っていたものに「赤い液体」があった気がする。
どうせ偽物。水に赤い絵の具を混ぜたものだろう……そう思ってた。
吐き気がした……なら?あれは?シロの血液?

他に何を売っていた……
思い出せ思い出せ
急いで売り物を保管している部屋に行き一通り物色して部屋に持ち帰った

・赤い妙薬:血液
・加護のお守り:髪の毛
・加護の札:皮膚の一部
・奇跡の霊薬:涙

まだまだあった…調べたらどれもこれも……シロの体の一部が含まれている。

いつから?いつからだ?ずっと前から?
けど怪我なんてひとつだって…そんな時に思い出した。

シロはなぜか少ない魔力て高精度の魔法を使えること
その一つに回復魔法があることを

乾いた笑みが出てくる

何だ何だそういうことかよっと

本当に狂ってる……狂いすぎている
あんな小さな子供にそんなことをしてたのか?
それにあの子は耐えていたのか?
それに自分は気づけなかったのか?



苦しくて仕方なかった
吐きたくて仕方なかった

「助けなきゃ……」

失ってからは遅い

そう言ってた。教えてくれた。

守らないと

俺が守らないと

誰がシロを守ってくれる?


シロが18歳の誕生日を迎える前日
俺はシロのところに行っていた
監視の目をかいくぐって

「シロ。」

そう声をかける

もう間違えないために

もう何も見失わないために

「お兄様?」

と不思議そうに尋ねてくるシロ

何も分かってない……いや分かれなかった……可哀想なシロ

俺が守らないと

これからもきっと酷い目に合わされるから

「逃げよう。一緒に逃げよう。」

そうして自分はシロを連れ出した。

シロを抱えて走って走って走って逃げた

追ってが来ていた

魔法で怪我をして

血が出て苦しかった

「お兄様?お兄様!!」

とシロが叫ぶ声が聞こえる

この子だけでも逃がさないとと

もっと遠くに逃げないと

そう思ってた必死に逃げた

「大丈夫……シロ。俺が守るから。だから…寝ていろ。これは夢だから全部忘れてしまえ。」

そう言って記憶を消して眠らせた。
そうしたら暴れないだろ?大人しいだろ?
嫌な記憶は夢にして忘れた方がいいだろう。

親なんて嫌いだ

我が子にこんな重みを背負わせる

人間なんて嫌いだ

勝手にまつりあげて……利用する

世界なんて嫌いだ

誰も助けてくれない

神様なんて居ない

どれくらい逃げた分からない

けど怪我をして血を溢れさせて

シロに怪我をさせないように守りながら転けてしまい……

追い詰められた

父親がいた

「……渡すかよ…お前になんかに…シロは…道具なんかじゃねぇ!!!自由に生きるべき人間なんだよ!!!!」

けど手段がない
もうダメか……そう思った目を瞑って目を見開いた……

そこは知らない場所だった

意味がわからない

まるで瞬間移動でもしたみたいに

けど誰もいない

父も母も信者も誰もいなかった

それだけで安心できた

腕の中にはすやすやと眠るシロがいた

ぎゅっと抱き締めて事切れたように倒れ込む

どうかどうか

お願いだ

俺はどうなってもいいから

シロだけは助けてくれ

そう刹那に願いながら

彼はそっと目を閉じた
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プロエリウム(プロエ)さん (94oxky5e)2024/5/12 14:42 (No.105040)削除
【次回予告風その2】

「あの、山車さん」

「…何だ、鼎?」

「俺達…暫く出番ないみたいですね…」

「ああそうだよ…なんか大人の都合らしいんだってよ」

「酷くないですか!?ちょっと位は出番欲しいですよ!山車さんもほしいですよね!?」

「鼎と同意見だよ。でも脚本という絶対の理には従わないといけないんでな…と言う訳で次回———」

「ああちょっと!俺まだ言ってない文句があるんですけど!?」

「【遊園地に出かけよう!】…毎回タイトルに感嘆符が付くみたいだな。では乞うご期待」

「待ってください俺まだ———」

【つづく】
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プロエリウム(プロエ)さん (94o7jztu)2024/5/12 02:28 (No.105003)削除
【セ・トレボン・クロカンブッシュを食べよう!】

「わたし、これ食べたい」

子子花が一つのポスターを手渡す。
そこにはフランスの洋菓子が売られている店の情報が書かれており、中央にはクロカンブッシュと呼ばれるお菓子が映っていた。

「わたしと一緒に行きたいの?いいよ!じゃあ変装器具を使っていこうか」

いつも使っている人間に擬態する為の変装器具を持ってくる為、リアは棚ヘと歩く。

———変装器具、とある科学者に協力して作って頂いた物だ。
使用すると「種族」を一時的に任意の物に書き換える事が出来る。
これを用いることで悪魔から人間へと一時的に化け、扮装すると言う算段だ。

魔力の波長、波形、雰囲気と言ったあらゆる物が悪魔の物でなくなるので、能力などに頼らない第六感の類でも見破ることは不可能である。
破格の隠密、偽装性能だがとある欠点がある…が、今は語る必要は無い。

「はい、持ってきたよ〜。付けてね子子花ちゃん」

のほほんとした声で話すリアは、子子花に変装器具を渡した。
首に付ける漆黒色のチョーカーのそれを、子子花とリアは付けた。

「やっぱりちょっと冷たい。でも我慢我慢」

子子花首に感じるひんやりする感触に少し嫌気を感じるが直ぐに自身の体温で暖かくなるので今は我慢する。
リアの方は特に気にしてはいない様子であった。

「それじゃあレッツゴー!閉店時間になっちゃう前にね!」

二人は個室から店に向かって歩き始めた。
























「いらっしゃいませー」

人間の店員さんが明るい挨拶を見せた。

「二人です。席空いている場所ありますか?」

リアは真面目且つ少し明るい顔で応対する。
今は悪魔モードじゃない為、素で振る舞っていた。

「ではあちらになりますね」

店員さんに案内されれば二人は奥の席へと座った。
その後、子子花が食べたかったものを注文した。
数分後にそれが届く。
二人は美味しく頂くことにした。

「来た…!頂きます」

子子花は目を輝かせる。
透かさずそれに手を伸ばした———その時だった。

突如として、店内の壁が破壊される。
飛来してきた壁を二人は避けた。

「危ない、クロカンブッシュが」

「ん〜何でこんな平穏な場所で行き成りこんな展開になっちゃうんだろうね?」

子子花は菓子が乗った皿を右手で持って退避。
リアは困惑した且つ苦笑いで反応した。

砂埃が晴れ、破壊された壁の向こうから出てきたのは…。

「おい!ここの物を全部寄越しやがれ!さもなくば皆殺しだ、ぎゃっはっはっはっはっは!!!」

現れたのはガラの悪い大男複数名。
全員、アウトサイダーの紋章が付いたラフな男服を着ていた。

「ひっ…ひぃいー!?」

男の店員さんが腰を抜かして倒れてしまっている。
そりゃそうだろう。
彼は明らかに一般人。
そんな中、危険な能力者集団であるアウトサイダーが現れたら恐れおののくに決まっている。

「何だか面倒な事になっちゃったね〜。子子花ちゃん、どうするか決まってる?」

リアはぽわぽわした顔を浮かべているが、内心怒りを感じていた。
私達の食事を邪魔したことに対する憤慨を。
其れに対し子子花は———

「考えていることは一緒だよ、リーダー」

「そうみたいだね!じゃあ———懲らしめちゃおっか☆」

少女達は、アウトサイダーの面々に向かって立ち塞がった。

「あァ?何だてめぇら?小娘の分際で何だその顔は!」

キレているアウトサイダーの班長と思わしき男が、その様に語った瞬間。
———リアが男の腰で両足で纏わりつき、右手に持ったナイフを男の首筋に当てていた。

「なっ!?い、いつの間に…而も、体が動かねぇ!」

男は汗を流す。
一瞬にして距離を詰められた上に"全く身動きを取れなくなった"からだ。
恐らく能力の類だろうが…瞬間的な移動に強制拘束…思い当たる能力が思い浮かばなかった。

取り巻きを仕切る男の窮地。
それを見た取り巻きの男が怒りの血相になった。

「てめぇ班長を!」

「許さねぇ!やっちまえ!」

巨漢達が一斉にリアの元に向かう。
然し、子子花が走っていく巨漢たちを次々と蹴り飛ばしていった。

「ぐわぁ!?」

「ぎゃああ!?」

「な、何だこの雌猫はッ!?でけぇ俺達を蹴り一つで!その細身のどこにバカ見てぇな怪力が…のわぁああああ!?」

アウトサイダーたちは、あっけなく鎮圧されてしまった。

「私さぁ、今こんな顔してるけどね…実際にはすっごくキレてるんだよねぇ。子子花ちゃんの折角の食事を邪魔されたんだからさぁ、君達にはその責任を取って貰う必要があるんだよ?」

リアは笑いながら、男の首筋にナイフを突きつける。
男の首筋には地が滴り落ち、うかkり切りかねない状態だった。

「わ…悪かった!金払うからよ!離してくれ!」

その言葉を聞けば、リアは0秒で男から3m離れた後方へと移動し着地した。
正に瞬間的な移動を見せつければ、男は懐から財布の入った大金を取り出し眼の前に投げつけた。

「野郎ども!ずらかるぞ!」

その一声で倒れていたアウトサイダー達は起き上がり、ずらかっていくのであった。

「食の恨みは怖い。ざまぁみろ」

子子花は真顔でクールにそう言い放った。

「お金を落として去ってくれただけでも今回は有情だったね。普通のアウトサイダーならそのまま戦闘継続する人の方が多いし、今のは割とマシな人達だったかな」

アウトサイダーは荒くれ者の集まりだ。
この程度の事では諦めない者のほうが多い。
故に今回は良心的だったと言える。
リアは男が落とした財布を拾った。

「クロカンブッシュは無事?子子花ちゃん」

「うん、無事。わたしが決死の覚悟で死守したから」

両手でクロカンブッシュの乗った皿を持つ子子猫。
誇らしい顔でそれを見つめていた。

「邪魔されちゃったけどそれが無事で良かったね子子花ちゃん!じゃあ改めてそれを食べようか!」

二人はその後、食事を楽しんだ。
尚、定員さんはずっと置いてけぼりだった。
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さん (8zf1pchi)2024/5/10 20:23 (No.104880)削除
『存在してはいけない記憶』




十字架で拾われてから数年経った。

リエルの怪我は完治、とまでは言わないがそれぞれ傷は塞がり、痕は残ったものの火傷も治った。

リハビリ代わりの日課の散歩。

いつかまた、妹と逢えた時にすぐに駆け寄りたいから、抱きしめたいから。

そんな散歩の途中。

猫を見かけた。

野良ではあまり見ない雪のように真っ白な美しい猫を。

そんな美しい猫が路地裏へ入っていく。

普段なら寄り道をしないリエル。

だがその猫がどうしても気になって歩きづらい足で追いかけてしまった。

路地裏に入って、猫を追いかけて奥へと進む。

まるでリエルを待っているのかのようにその美しい猫は時折立ち止まって、リエルの方を向く。

そうして路地裏の奥の奥。

普通の人間が、ましてや足に障害を持っている者が近付いてはいけない場所まで来てしまった。

そこにはゴロツキが数人。

ジロリとリエルの方を見遣る。

その目つきは獲物を見つけた狩人の目。

しかしリエルはそれが分からない。

なぜならそのゴロツキのことを色のついたモヤモヤにしか見えていなかったから。

ゴロツキが何かを喋る。

しかしリエルには理解できない。

首を傾げることしか出来ず、相手が何を言いたいのかも分からない。

言葉が言葉として脳に到達しない。

そうしている間に腕を力強く掴まれる。

何が起こっているのか、相手が何をしたいのか分からない。

引っ張られて無理矢理歩かされる。

足が不自由なリエルはその速度についていけず、足をもつれさせて転んでしまった。

そんなリエルの肩が今度は掴まれる。

モヤモヤが複数、リエルを取り囲んで見下ろしている。

何をしたいのか、何をされるのか分からないリエル。

服を脱がされてもその意図に気付けずにいた。




病気の影響で記憶に存在しないものが時々混じる。

それは幻聴と幻覚であることが多い。

だが稀に"存在してはいけない記憶"も存在する。

それがこの記憶だった。




リエルの記憶は飛び飛びである。


気が付いたら自分の体のあちこちが悲鳴をあげていた。

顎も、臀部も、背中も、足も。

口には得体の知れないものが入れられており、抜き差しがされている。

喉奥に当たっては嘔吐くがやめてはもらえない。

見えはしないが臀部も同じだろう。

得体の知れないものを、本来そのような使い方をされない場所に抜き差しされている。

鉄の匂いがする。

おそらくどこからか血が出ているはずだ。

だとしたら臀部か。

まるで切り裂いたように痛いのだから。


そこでまた記憶が途切れる。


次に気付いた時は四つん這いにされていた。

だがされている行為は変わらない。

それどころか背中をレンガのような固いもので叩かれている。

口に入れられた得体の知れないものを上手く奉仕しないと容赦なく叩かれた。

少なくとも痣が出来ているはずだ。

悪くてヒビか骨折か。


再び記憶が途切れた。


再度気付いた時は最初と同じ体勢。

違うものがあるとするならば息苦しさか。

状況は何一つ変わらない。

その中で初めて感じる息苦しさ。

まるで、喉を絞められているかのような。

否、間違いなく喉を絞められている。

息がしたいのに出来なくて、死んでしまうんじゃないのかという恐怖心が出てくる。

抵抗をしようにも両手両足、誰かに掴まれているようで動かせない。

言葉で抵抗しようにも嘔吐くばかりでまともに声も出せない。

酸欠からか、はたまた病気のせいか、また記憶が途切れた。


もう何度記憶が途切れたのかリエルは分からない。

一つわかることがあるとするならば、終わりのないこの行為。

苦しいだけ、痛いだけの生産性のない行為。

嘔吐いて泣いて苦しんでも終わらない。

まるで、人形のようにリエル扱うこのモヤモヤ達が一体どんな顔をしているのかも分からない中で、発端となった白く美しい猫の姿が見えた。

助けてほしい、藁にもすがる思いだった。

だが猫は無情にも去って行ってしまう。

殴られて、蹴られて、首を絞められて。

何度も何度も嘔吐いては涙を流して。

終わりのないこの行為は抵抗するより受け入れた方が早い。


リエルは全てを諦めて自ら意識を手放した。


最後の記憶は知らないベッドの上。

怪我の治療を施されておりそこが十字架内の部屋であることが分かった。

だが体はあちこちが痛み動かせない。

療養するように言いつけられてそのままリエルは眠る。

どうやって戻ってきたのか。

あのモヤモヤ達はどうなったのか。

分からないことばかりだが、リエルの中ではこの記憶は"存在してはいけない記憶"として忘れられることになった。











────────────???


リエルを襲っていたゴロツキ達の屍を踏みつけながら現れる2人組。

片方は山藍摺色の髪を持つ少年で、もう1人は白い布を頭から被った青年だった。




『あちゃ〜思ったよりやられてんねぇ?』

『お前がさっさと助けないからだろ』

『え〜だってつまんないじゃ〜ん!!』

『意味がわからない…』

『てか坊ちゃん治せる?』

『無理。やだ。つか綺麗さっぱり治ってる奴を放置したって意味ないだろ』

『そりゃそうかぁ〜!ならさ、恥ずかしいとこだけ治してやってよ』

『…そんな慈悲あったの?』

『ひっどいなぁ坊は。流石にオレだって可哀想だな〜って思うことはあるよ』

『……』

『なにその嘘だぁって顔。ほんとですぅ〜』

『…はぁ。なんでもいいや早く帰りたい』

『あ、痣とかは治しちゃダメヨ♡』

『うっっっっざ…』

『んな事言いつつぅ〜??…お〜!ちゃぁーんと治ってんねぇ』

『当たり前でしょ。…てか、血を摂るだけならただ襲えばいいのに…。どうせコイツ人の認識出来てないでしょ』

『ん〜?だってフツーとかつまんねぇじゃん?』

『その感性が分からない…』

『坊の友人クンも同じ完成の持ち主ヨ♡』

『はぁ…友達選びミスったな…』

『あっはは!今更じゃん!』

『…もういいや、アスタと約束があるんだ。さっさと連れてくよ』

『はいはい坊の仰せのままにぃ〜??』

『…殴るぞ』

『イヤンッ!乱暴は2人きりの時にネ♡♡』

『はぁぁぁぁぁ…………………』




少年がリエルを担ぐと、青年は美しい白猫に姿を変えた。​
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プロエリウム(プロエ)さん (94klzjg3)2024/5/9 14:00 (No.104787)削除
【特別任務:プラエフェクトゥス───斯くして動き出す虚飾へ】

「何ぃ?特別任務に参加しろだと?」

山車は電子端末より緊急任務の通知を受け、億劫と辟易を綯い交ぜにした顔つきになった。

「副リーダーの失踪により俺が指名を受けただと?ああそういう…はぁ、勘弁してくれよ」

突如として消えた副リーダー。
本当は副リーダーが参戦する筈だったこの任務に代理で入ることになってしまったのだ。

「…次の副リーダーが決まるまでは忙しそうだな…折角面倒な案件を片したのに…最悪だ…」

山車は渋々、集合場所へと向かうのであった。
























































「あはははは☆辺り一面砂漠だね!」

此処は砂漠地帯。
熱暑と砂に彩られし砂の地平を歩く集団がいた。

「リアちゃん、こんな場所にお宝が眠っているとは思えないよ。根拠があまりにも少なすぎるし」

「お腹…空いたぁ…うぅ、きつい」

「アンタさっき食べたばかりでしょ!我儘言わないでちゃんと歩くのよ!」

「私は暑いほうがきついです…悪魔であってもこの暑さは堪えます…」

悪魔の少女たちは歩く…何かを求めて。

「根拠ならあるよ?だってこの地平の中心には───」

忽然と、地面が盛り上がる。
少女たちの目の前に、砂埃とともに何かが現れる。

「守護神がいるから!」

現れたのは、砂の巨人だった。
巨人が赤い瞳を煌めかせる。
少女たちがその後どうなったかは───彼女達のみが知る噺だ。
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プロエリウム(プロエ)さん (94kaimzx)2024/5/9 08:39 (No.104773)削除
【大姦なる翆液滅尽後の晩餐会】

「悪く思うな悪魔───憎むなら、聡く謀を作れなかった己自身を憎みな」

悪魔、癰疽の消滅を確認すれば、俺はそうつぶやいた。

「山車先輩!あの人が…やってくれました!」

喜々とした様子で後輩が話す。

「ああ、あの人のお陰だ。今度会ったら感謝しないとな…さて、今度は晩餐会としよう」

「はい!」

そして数日が経った…。



























「鼎、あの悪魔を狩れたのはお前のお陰でもある。ありがとな。」

晩餐会で後輩と山車が話す。
後輩は嬉しそうにした。

「いえいえ、俺は魔法陣作ってジャミングかけただけですよ!そんな大した事はしてないです、あはは」

「何はともあれこれで暫くは安心だよ。レベルXとか大悪魔とかアウトサイダーとか、面倒な連中は今だんまりしているし、数カ月は安閑としていられるよ俺達」

山車も微笑んでいる。

「俺は早くそいつらを倒したいですけどね!山車さんは俺の勇姿を見てくれればいいんで!」

「威風堂々結構。だけどあまり無理するなよ」

「はい!無茶しない程度に頑張るんで!」

山車は安心した様子で、一旦一息つくのであった…。
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プロエリウム(プロエ)さん (94jk9gjd)2024/5/8 20:24 (No.104751)削除
【這い寄り蝕みし翆液】
「山車先輩、どうして俺を呼び出したんですか?」

ノアの本拠点である王都の場内。
山車の個室にて当人と男の後輩が話していた。
後輩は15歳で、年若い青年であった。

「まずはこれを見てくれ」

そう言うと山車はタブレット端末に表示された一つの資料を表示する。
それは悪魔である癰疽の情報資料であった。

「Sランクであるスライムの悪魔、その資料ですよね。一体なぜこれを?」

山車は真剣な表情になる。

「ここを見てくれ、俺が追記した情報だ」

一つの場所を指差す。
そこは能力が記載された箇所だった。

「スライムを寄生させる事が可能でその数に限りはない…スライムの射程距離の制限は存在せず、寄生対象の中で増殖し続ける…ちょっと待ってください!これおかしく無いですか?」

能力としては破格すぎる。
まず射程距離が実質無限で寄生も限りがない。
これだけの力は恐ろしすぎる。
超脱した力に後輩は面食らってしまう。

「ああ可笑しいよ、理不尽だ。気持ちは分かる。だけどまだ読み終わってないから続き、読んでくれるか?」

取り敢えず全部読んでもらわないと話が進まない。
続きを読むよう後輩に促す。

「はい、規制対象化でスライムは気づかないうちに増殖。最終的には対象の体組織をスライムによって変化可能となる!?…尚、スライムは入った瞬間に対象の体と遺伝子レベルで一体化するので侵入されたことと増殖される感触に一切気づけない…これに気づける能力は現状存在していない…」

読み終えた後輩が冷汗三斗する。
あまりに凶悪な能力に、戦々恐々してしまったのだ。
数秒後、後輩は口を開く。

「山車さん…この悍ましい力を何でこのタイミングで教えたんですか?」

山車は深刻な顔になって話す。

「お前に深刻な事態を伝える為だ。」

山車はさらに険しい表情になってこう言った。

「今起こっている結論を先に伝えよう。人類は今───"9割以上"がスライムに寄生されている」

後輩はその事実を聞いて、目を見開いた。
さらに、汗を一杯流す様な悪寒を身に感じた。

「え、えぇー!?そんな!じゃあ俺達の内ほとんどが気持ち悪い液体に侵されているって事じゃないですか!!リーダーに報告しましょう!一刻も早く!」

後輩が部屋から出ようとすると、山車は静止をかける

「待て。今リーダーに報告したら、組織に大混乱を招く可能性がある」

後輩とは正反対に悠揚とする山車は続けて話す。

「リーダーは単独で癰疽を狩りに行こうとするだろう。或いは集団を率いてだ。だが前者の場合如何にリーダーの千里眼を以てしても発見には時間がかかる。それにリーダーは今非常に多忙だ。タスクが多すぎる。」

山車は淡々と報告が悪手である理由を語る。

「後者の場合、話の伝達が伴う。もし伝達の過程でこの情報が一般人に流れ混んだら?間違いなく大混乱が起きる。今はこの防音兼能力魔法遮断の個室で話しているから問題は無いが、リーダーが同じ様にそこを徹底してくれるとは限らない」

「山車さん…リーダーの事は信頼していないんですか…」

後輩は苦笑い。
まさかリーダーがその面で信頼されていないとは思わなかったからだ。
リーダーって完璧超人だと思っていたけどそう言う面もあるのかな?と疑問符が浮かぶ。

「話したことは無いが映像記憶の所作や性格から分析した結果、この人は割と抜けている所があるかも知れないと判断しただけさ…もしかしたら俺が勘違いしているかも知れない可能性もあるのだが、生憎リーダーと面会の機会を貰えていない俺では其処から判断するしか無かったからな」

山車は憂いたように顔を下げる。

「山車さんの勘は殆ど外れ無いですからね。まあ今回の勘は外れていて欲しいですがね!リーダーが情報機密を守れない人なんて嫌ですし!それに完璧であって欲しいですから!」

「リーダーにプレッシャーかける様な事を言うのは止めろ…誰しも完璧ってわけじゃあ無いんだからさ」

山車は後輩に諭した。
完璧な人物像を他人に押し付けるなと。
その人にプレッシャーがかかるから。
それに対し後輩は朗らかに応える。

「理想を見るぐらい良いじゃないですか!リーダーにそう言う理想を見い出せば自然と気合いが入りますし!」

山車は話が脱線しているのを感じて軌道修正を図った。

「…まあお前の言い分も正しいよ。話が脱線したから戻すぞ。この件は俺が指名した者以外には内密にして欲しい」

山車は毅然とした顔となる。

「そしてここからが本題だが…鼎、お前には癰疽討伐計画に協力して欲しい」

後輩の名前…鼎と呼ぶ。
鼎は首を傾げた。

「討伐計画?それに協力って何をすればいいんですか?」

山車は待っていましたと言わんばかりに、微笑んだ。

「───お前のジャミング能力と大魔法陣の作成だ」

(斯くして、癰疽討伐へと繋がる一人の仲間、そのピースを得たのであった…)

【次章:大姦なる翆液滅尽後の晩餐会】
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さん (8z9vrvz5)2024/5/5 01:17 (No.104374)削除
〖悪い気はしない。〗



「…………ハ?」



とあるいつもの通りの日常。


突然の出来事。


撫でられている、頭を。



「おイ、何気安く触ってんだヨ。」



そう言えば、相手の手を振り払う。



『あーすまん』


「オマエふざけるなヨ。」



軽い謝罪。


虫酸が走る、謝るならちゃんと謝れ。



「んデ、何でいきなり人の頭を撫でたワケ?」


『えーっとなァ…もふもふしてそうだったから。』


「引くワ、そんな理由で撫でんナ。」


『えー……』



自身のもふもふとした耳が気になったそうだ。


いや…それだとしても引く。


分が悪そうに、苛立ちを隠さずに舌打ちをした。



『そんで、撫でられた気分はァ?』


「ハ?」


『いやだからァ、撫でられた気分はどうだよォ?』


「気持ち悪い以外にあると思うのカ?」


『気持ち的な問題じゃなくてよォ、体感的なもんでどうだったかを聞いてんだよォ。』


「…………」



乱雑に髪を掴まれる訳でも無く、引っ張られる訳でも無く、優しく撫でられた頭。


体感的なものを問われれば、全くもって気持ち悪くは無かった。


そのことを言うかどうか、少し目線を下げて、何も言わずに考えた。



『ま、言わねェんならそれでいいわ。』



かなりいい事を言ってくれる。


こちらとしては好都合



『勝手に良かったと思っとくからよォ。』



と思ったのも束の間だったようだ。


「ハァ?ふざけるのも大概ニ…」


『じャあ感想言ってみろよォ?』


「…………」


『素直じャねェなァ…』



そんなことを言われれば、また顔を下げた。


自分のプライドが邪魔をするのだから、言える訳が無いだろう。


目の前の存在に感想を言う程、プライドは捨てていないのだから。



『そんじャ、俺はもふもふ堪能出来たから帰るわァ。』


「金は払ッて貰うからナ。」


『はいはい。』



そんな会話すれば、ここから離れる背中を見送る。



「………ハァ…」



大きな溜め息。


ふと、撫でられた頭に手をやる。


撫でられたことなんて久しぶりだ。


兄に撫でられたくらいの記憶しか無い筈なのに。


何でこんなにも、感情がめちゃくちゃになるのだろう。


色々な感情が入り交じって、また溜め息をついた。


今一番、言えること。


彼から撫でられたことは









「…………悪い気はしなかッタ。」



         本音
誰に届くことも無い言葉。


思わず、独りで零してしまった。
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