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プロエリウム(プロエ)さん (94xgrdkj)2024/5/18 13:55 (No.105557)削除【遊園地に出かけよう!】
───夢を見ていた。
遠い日の夢だ。
まだわたしが其処まで感情的じゃなかった頃かな?
とっても暖かい、先輩と出会ったときの夢。
「君に姿が無くて、顔を会わせられないって言うなら!」
「私が姿形を与えてあげる!」
───先輩の胸元から溢れ出て来るぽかぽかとした光。
それは優しく、実体の無いわたしを包み込んだ。
「リアちゃん、遊園地に行かない?」
寝室から起きて人類側の情報資料を読んでいたわたしは、紙にまとめられたそれを机の上に置く。
ウルペスからの突然の提案に、何だろうと疑念を抱いた。
「ウルペスちゃん突然だね、遊興のお誘いなんて!何で遊園地に行きたいか聞いてもいいかな?」
わたしはすかさずウルペスちゃんに問いかけた。
「…その遊園地に夢の国の手がかりがあるかも知れないからだよ」
「!」
夢の国、それを聞いたわたしは真剣な眼差しになった。
それはわたしが探っていた謎の勢力の事だ。
悪魔や呪いを政府同様に抹殺する一派の一つであり、その者達の根城が分からずブラックボックス化していた。
敵対勢力の事は隙間なく探っておきたい。
後顧の憂いを無くしたいからだ。
「一応聞いておくけどね、手がかりがあると言う根拠はある?」
とは言え、その証拠がなければ信用はできない。
何せ此処まで一切の緒が無かった夢の国だ。
幾ら信用できる彼女でも歴とした証左がなければ調査に赴く気は沸かない。
「そう言うと思ったよ〜。はい、遊園地を下見した際に得た魔力の痕跡をデータ化した資料群と所属者の写真だよ」
ウルペスは紙の資料を幾つか机に置いた。
それをまじまじとわたしは見つめる。
「…」
其処には論理的な魔力データと明瞭な画像が記載されていた。
特にこの魔力の波形…分布があちこちで奇怪なこの形。
さらに夢の国所属と思わしき人物の写真。
ああ、これは間違いない———夢の国だ。
「これは本物だね!あはは☆やっぱりウルペスちゃんは賢しいね!ありがとう、見つけてくれて!」
「これくらいは造作も無いことだよ〜」
褒め称えるわたしに対してウルペスちゃんは笑みを浮かべた。
「今は私達二人しか居ないから、二人で行こうか!」
他の三人は各々別のことをやってもらっている。
今手が空いているのはわたしとウルペスちゃんだけだ。
だから二人で行くことにする。
「いいよ〜其処まで危ないところではなさそうだからね。扮装器具を持ってくるね」
そうしてわたしたちは遊園地に行くことになった。
「ここで合ってる?ウルペスちゃん」
遊園地のジェットコースター乗り場、その裏側にわたしたちは訪れた。
人の気配は殆ど無いこの場所で、行き止まりの壁を二人揃って見つめている。
「間違いないよ〜。今、例のカードを翳すね」
ウルペスちゃんはピエロのマークが書かれた金色のカードを壁に押し当てた。
すると、壁が水が起こすような波紋が生じ、揺れ動き始めた。
「わーお。入っていいかな?」
わたしが先行して中の様子を確認しに行く。
試しに顔だけ向こう側に入れて見た。
「…当たりみたいだね。」
その先には、こちら側とは一切異なる形の、夢の国が広がっていた。
様々なアトラクションに奇異な格好をした者達。
道化となって笑顔を振りまく者など、陽気な雰囲気に満ち溢れていた。
リアは顔を壁から戻す。
「ウルペスちゃん、向こう側は確かに夢の国だったよ!よくここが分かったね!」
どうやってここを見つけ出したんだろうか?
怪訝になったわたしはウルペスちゃんに聞いてみた。
「夢の国に関する噂を徹底的に人やインターネットから探って、目星が付きそうな場所に絞って探ったら見つけたんだよ〜」
なるほど、インターネットに疎い私に代わって探してくれていたのか。
而も敵である人類側に諜報活動を行なって情報収集もしていた。
これは彼女じゃないと出来ない事だ。
「やっぱりウルペスちゃんは凄いや☆わたし一人だったら到底出来なかったかもね、本当にありがとう!」
間違いなく彼女がいなければ見つけられなかった。
これに関しては大いに感謝せざるを得ない。
そうこう話し合っていれば、二人で夢の国への突入を敢行する事にした。
「リアちゃんの存在消去を使っているとは言え、何だか怖いね」
夢の国への侵入にあたって、今回は2つの偽装処理を施している。
一つ、人間への擬態。
これは首につけた黒いチョーカー型の機械で実施済みだ。
2つ目、これはリアがいなければ出来ないことである。
何をしているか?
結論から言えば、"二人の存在を無かったことにしている"。
リアの力は無そのものを操る。
それによって二人の存在を一時的に消すことで認知できないようにしているという手法だ。
流石に権能持ちなどの強大な存在には気付かれてしまうが、それ以下の次元にある者達には決して気付かれることはない。
尤も、この存在消去を実施している間は"他への一切の干渉"を行えないので、攻撃をしたり物を盗んだりは出来ないのだが。
「大丈夫だよウルペスちゃん、仮にバレたとしても今の私達は悪魔として認識されないから襲われる事はないと思うよ!」
二人で会話しながら、夢の国を散策する。
目的の場所はない。
今回はここがどういう場所なのかを把握できれば良い。
そんな中、わたしは一つの広間から惨憺な空気を感じ取った。
何だこの…血が腐りきったかのような腐臭は?
気になったのでそちらを覗いてみれば———
「やあ!僕はハッピーマウス!これから君達を死刑執行する幸せのネズミだよ!ア゙ハハハハ!」
其処には縄で縛られた複数の悪魔と呪いが居た。
強制的に地面へと座らされた悪魔達を見下ろすのは、全長2mほどの鼠の仮面を被った人。
笑顔をした仮面を被ったその人は、狂気的な感情を悪魔達に向けていた。
「や…止めてくれ!悪かった!ここに無断で入り込んだ俺達が悪かったから命だけはぐわぁあああー!?」
角をはやした大柄の悪魔の首を、ハッピーマウスはマチェットで跳ね飛ばした。
首から噴水のように鮮血が飛び散った。
「ひっ…!ひぃいいいー!?」
他の男の悪魔達が恐怖のあまりジタバタして逃げ出そうとする。
だがそれは叶わず、次々と首を落とされていった。
合計10体もの悪魔・呪いの亡骸が地面へと横たわる。
首が無くなった死骸は、血を湧出させて地面を赤くデコレーションした。
「観客の皆様!拍手喝采を!」
パチパチパチ、周囲の見物客達が拍手を巻き起こした。
———なにこれ?
首を切る行為が、エンターテインメントとして上演されている?
狂ってる。
確かに悪魔達は世界から非難される存在だ。
だが———これは余りにも———。
「ご清聴———ありがとうございました!」
わたし達は夢の国の探索を、そこで一旦止める事にした。
怖気づいた…と言われればそうなのだが、正確に言うならリスクが予想よりも大きかったからだ。
先程の鼠仮面…残虐なのは兎も角、感じられる闘気がただならぬものだったのだ。
あんなのが他にも居ると考えたら、見つかった際の危険度は飛躍的に上がる。
…と言うより発見されたら只じゃ済まない。
わたし達は夢の国に関する事を保留にし、家に帰るのであった。
「グロリア博士、悪魔達のデータ蒐集終えました」
ここはとあるMAGの研究所。
そこで一人の若干の男社員と、ベテランの男社員———グロリア博士が話していた。
「ご苦労。さて…。」
グロリア博士は並べられた資料を見る。
其処には五人の悪魔のデータが記載されていた。
「我が娘達よ、数週間後に合従の試練を与えよう…ふふふふ、これから手に入る戦闘データが楽しみだ」
グロリア博士は一人、笑ったのであった。
【次回:防衛戦争をしよう!その一】