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緑茶さん (8z88g5i0)2025/9/19 22:59 (No.142546)削除
「で、何の用だ。女王様がわざわざこんな組織の拠点に来るなんて…」

「私がここに来たら何か不都合でもあるんですか?」

「そうは言ってないだろ。相変わらず話が通じない女だな」


蒼月の瞳が、その閉じられている瞼をじっと見つめる

永い付き合いだが、お互いのことはほんの少ししか理解していない
干渉は諸刃の剣だ
そう易々とできる訳ではない


「ふふ。冗談ですよ。貴方も変わらず冗談が通じない人ですね」

「安心してください。今日は少し、お話がしたくて来ただけですから」

「………お前の妹の話をするだけなら今すぐ出て行かせるが」

「違いますよ!もう!確かにあの子にも関わる話ですけどね、違います!」

「はぁ…。話が進まんな。手短に話せ」

溜息を吐いては、茶番のように続く会話を終わらせようとする

この女と話すのは嫌いだ
己の妹の慈愛と似ている、氷を溶かそうとする温かな火

大嫌いだ


「先日、モイラ様から手紙が届いたんです。そこに『背後に迫る邪に注意せよ』と書かれていたんです」

「……彼女らの糸が何かを察知したと?そう言いたいのか?」

女王は静かに頷いた
蒼月の瞳の男は、少し思案する

あの運命の女神は時たま人を弄ぶような言動をする
今回だってその可能性はある


「気にしすぎだろう。アレらの戯れに付き合う難癖はよせ。時間の無駄だ」


「……そう、だと良いんですけどね」

「そんなに心配ならば何故ひとりで来た。お前は他の奴らとは…」

「ええ、わかってます。わかってますよ」


「私は他の人たちとは違います。権能が不完全です」

「自らそうした癖によく言う」

嘲るように、軽蔑するように溢した

彼女が昔にしたあの行為は、はっきり言って異例も異例すぎた

何故なら女王はとある少女に大事な瞳をふたつとも捧げたから

そうして彼女の権能は欠けてしまった


「今更己の選択を悔やみでもしたか?それで俺に助けを乞うと?」

「そんなことしませんよ。それに…」
「私はあの選択を悔やむことは絶対にありませんから」


「狂ってるな」


「はい?」


「ティターニア…お前は狂ってるよ」


冷たく、それでもはっきりと言い放った

理解できない目の前の女に対して


男にとって彼女は得体の知れない化け物のようだった


「アレは…あの女は、お前の妹でも家族でもない。その行いに見合う存在でもな…」


「フェリスは私の妹です」


「愛してる妹の為なら、この身を削ることを惜しみません」

「それは貴方も同じでしょう?」


「アイツを守れなかった俺への嫌味か?」


「いいえ?でも私たち、同じだと思うんです」


男は思いっきり顔を顰めた
それは自覚なしでありながらも、最大限の侮辱であった


「俺とアイツはお前たちとは違う。ちゃんと血の繋がっている家族だ。一緒にするな」

「細かいことは良いんですよ。そこに愛があるのは間違いではないでしょう?」


その言葉に思わず沈黙を走らせてしまった

だってそうだから、違わないから


最愛で、たったひとりの家族を愛していない訳がないから


「何が言いたい」

「守れと言うのなら俺はする気はない。他所を当たれ」

「守って欲しいとは言いません。ただ…」


「もし、私に何かあった時…その時はフェリスのことを見て欲しいんです」



「何故俺に頼む」


「理由はわかるでしょう?」


嗚呼、わかるさ
わかっている
わかっているからこそ聞いた


「よく俺に任せようと思えたな」


「貴方は優しいから。だからしてくれるって信じてますよ、アダムさん」




その数週間後に、ティターニアは寝たきりになった



言われた通り、あの女の妹を見る為に王城にまで足を運んだ



「なに。今お前に構う余裕ないんだけど」


「だろうな。俺だって来たくて来たわけではない」


「じゃあ何?冷やかしにでも来たわけ?」

「お前があの事を気にしているようだから助言を言いに来ただけだ」



「お前は姉を守れなかったことを悔やんでいるようだが…お前が悔やんだところで何も変わらない。それに…」




「あれは避けることのできない害だった」

「……だからお姉ちゃんがああなったのは仕方ねぇって?黙って受け入れろって?…ふざけんな。ふざけんなよ!仕方ないもクソもあるかもんか!そんな言葉で納得するわけねぇだろ!」

「…………そうだな。だが、今何をしても現実は変わらん」


「ティターニアは寝たきりになった。お前は姉を守れなかった」

「ただそれだけの話だ」


「………なんだよ。何が言いたいんだよ」


深海のような瞳を蒼月の瞳で見つめる

たとえ言ったとしても伝わらない


だが言わないと言う選択肢はない


「お前は誰も守れてない。ずっと守られてきただけだ」
「だが教えてやる。この世界にはどうしようもできねぇ現実ってもんがあるんだよ。どれだけ努力しようが夢見ようが、人にはどうしようもできねぇもんが必ずある」


「それがこれだったってだけだ。ティターニアを守れなかったこと。それはお前が悪いことじゃない。自分を責めても何も変わらん」


「そう言う現実を受け入れることも必要だ。仕方がないことだったと」



『仕方がないことだった?』


姉が寝たきりになったことが?
守れなかったことが?
それら全てがそんな言葉で片付けられて溜まるものか


「いい加減にして!お前が妹を守れなかった気持ちを私に押し付けないでよ!」
「まだお姉ちゃんは死んでない。だから」
「だから…」



「仕方がなかったって…勝手に終わらせようとしないでよ…」



嗚呼、腹が立つ

弱いから大切な家族を守れない自分

そんな自分と似ているこの女


腹が立って仕方がない


「じゃあなんだ?今から何かできたとして、それでお前は胸を張って守れたと言えるのか?笑えるな。あの女の体から血は流れたのに、それから見て見ぬふりをし、それで守れたと言う気か?」
「だとしたらお前は、自分の心を満たす為に姉を利用しているだけだ。誰かを守れたと言う称号が欲しいだけの、ただのお子様に過ぎない」


「……言う訳ないじゃん」


「今から守れたとしても、それはお母様とお父様が望んだような守り方じゃない」



「でも…。だからって何もしないのは嫌なの」
「今度はお姉ちゃんを死なせない為に…」
「お姉ちゃんが大好きな世界を守る為に…」
「私は動かないといけないの。イヴさんを失って何もできなくなったお前とは違うの」


後者の言葉に対しての反論は、しなかった
そんな称号目的で何万年も我慢ができる訳ないだろう
なんて、言える筈がないから



「なら…憎しみの使い方を考えろ」

「……は?」


「その感情を使い、どう動くか。何をするかをその頭でよく考えろと言ってるんだ」


「口だけならなんとでも言えるだろ」



口だけの奴


そんな奴が大嫌いだから



「言われなくてもわかってるよ」



口だけの奴になりかけてしまったから






自室に戻り、ドレッサーの前に座る

鏡に映る自分の顔を見つめる
短い髪、薄く濁っている瞳



嗚呼、似ていない
あの人に似ていない

あの人になりたいとは思わない、あの人は唯一無二だから

ただ一緒にいて欲しい
隣にいて欲しい
手を繋いで欲しい



ただそれだけ



「フェリス、戻った?アダムさんと何話して…」




「フェリス、その髪…」



「ロス。私決めた」


「お姉ちゃんをあんな目に合わせた奴を殺す」


「あの化け物みたいな奴らをひとり残らず殺す」



「私にできることは、もうそれしかない」



「私にはお姉ちゃんしかいないの」



長く伸ばした髪を揺らしながら、フェリスはそう言った





花を手折った
健気な花だった
人を殺すことを躊躇う花だった



「これで良かったのか?」


また手折った
何度目だろう
後何回するのだろう



「……だから嫌いなんだ、あの姉妹が。どちらもイヴに似てるから」
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パラボラ。さん (9nogntnc)2025/9/2 23:17 (No.141743)削除
名前の意味。



あの頃まだ小さく孤独だったあの人に作られて、
永い時を一緒に過ごして、
あの人が友達が欲しいって言ったら。

マカはそれがいいと言いました。

ミンナ足りていない、
満足を得るために使命を植え付けられて動いて、
疲れて足を止めてしまう子がいる度に、マカは後ろから。

その子を刺して、解釈してあげました。

__じゃあジブンが止まった時には、一体誰が楽にしてくれるんでしょう?

マカにとって、安息を得ることは死ぬことでしかありません。抱擁されて、労られることではなかったのです。
アイを知っていたって、その上で殺してあげなければいけませんでした。

アイを踏みとどまってしまったのです。ジブンが人を愛する資格なんて、あるはずもない。だから一生好きな人に想いを告げることも、本気で想う子達を抱きしめてやることもできずに、ただただ不器用であるしかなかったのです。
それこそは、人が考えるマカの肖像、魔谺の姿そのものでした。

水面に反射するもの、それは月ではありません。
月の影であり、影はぼやけた紛い物ではなく。
「暁」として、人々に視認され、知覚され、広められ。

マカは、自分の名前に漢字をあてました。
それは摩訶。大きい、偉大で、尊大で、

それは、人や物を賞賛するための言葉でした。

谺、とは。こだま、やまびこを意味します。
何かが反響して、そうして帰ってくるのです。
マカは、ジブンの名前を穢れたもの。魔としました。
魔の谺、このあの人より賜った魔の名を、いつか。あの人に、こだまのように返上すると。
__ジブンを生み出したアナタを、殺してやるのだと。

鴻も雁も、おなじ「がん」という鳥であり、鴻の方が大きく、雁はそれよりも小さく。しかし、それは円環を成すのです。

水鏡暁月影も、魔谺も。どちらも嘘偽りなくカレの名前です。

大きくも、小さくも。
やらなければいけないことも、やりたいことも。
人が思う偶像も、ジブンが思う本当も。
ぐちゃぐちゃな筈なのに、円を作るのです。

天秤は傾くことはなく、蠍はソラに浮かぶでしょう。
いつかどちらかを捨てなければならない時、その大きさに、その重さに。この身が縛られないように。
鴻雁丸の名は、在るのです。

そんな、そんなつまらない。

誰のものでもない昔話です。
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みくろんさん (9hs89t5u)2025/4/15 10:47 (No.131818)削除
【酔狂なる讃歌】
やあやあ、ボクはジェスター。

みんな大好きピエロのジェスターだぜ。

え、覚えていない?そりゃそーさ!ボクと君は初めましての初対面だからネ。

意味が被ってる?気にしない気にしない気にしなァァァァァい!!!

HAHA!!話して疲れるだロ?それがボクさ。自己紹介おーわり!

さーてさてさてさて。本題にINするケド……








君、ルーデンスってヤツ知ってるぅ?

………

惚けても無駄無駄無駄ァ!だZE?

君の出生は調査済みなんだヨ。

…………

ゑ?マジで知らねーの?

……………

あー……じゃあ………












『結城 暗』









そう言ったホウが早いかナ?

…………………

そう!!!君が″見殺しにした″ソラちゃんだヨ!

覚えてるかい?何年前だっけナ……百年?千年?はたまた一万年?

まあともかく…






お前があの怪物を作ったんだロ?




……クハッ。ヤだなァ、私は君を責めてる訳じゃねーんだZE?

そんなこわーーーい顔しないでYO、″君達″とコトを構えるつもりは全くもって無いんだ。

ただ一つカクニンしたいコトがあってネ……

『カリスの紛い物』はドコにやったのかナ?

…………………

金髪だよ。それぐらいしか手掛かりがないのサ。

だから君に聞いてるのサ☆

……………………

…へえ?君も知らないのぉ?
ってことは……ソフィア、ネルカ、レイ……ここら辺も心も心当たりヴァニタスなカンジ?

………………………

そっかそっか……じゃ、いーや!

どうも今日はThank youだったネ!!

…………………………

″待たない″ヨォ?ちみは永遠に苦しみ続けるべきなんDA☆

それじゃーばいべー!













″結城 都″さん?





              (fin)
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みくろんさん (9hs89t5u)2025/4/13 17:32 (No.131744)削除
【惨劇という名の喜劇】



……誰かが呼んでいる。



………暗闇の奥底から私に手を伸ばしている



…………



……………



頭が痛い







家と家が燃えている



「たっ…だずげでぐだざい!ゆるじでぐだざい!なんでもッ…なんでもじまずがらッ!!!…っ…あ゛っ…」



…殺す。



「お前が母ちゃんたちを……許さないッ!許さない!!殺してやる……殺してやるぅッ!!!」



…殺す。



『愚か!実に愚かでありますねェ!!神たるKINGに逆らうことは許されないのでありますよォ!!アナタ様方も彼らの余興に過ぎないのですから!!クフ、クフフフフフッ』



暗転






赤い目をした男が立っている



「…一つ聞かせろ」



「何故、こんなことをした?」



『………何故?』



『何故、ですか』



『………何故、と言ったのでありますかぁ?』



『笑止笑止笑止ィッ!″楽しむ″ことに理由など必要なのでありますかァッ?私に正義を説くことも愚かだとしか言えませんねェ!!』



「……ああ、分かった。もういいよ。もういい。早く消えろ」



目の前が血で染まる



『カハッ……クヒッ…クフフフフッ………私を殺しても……アナタ様はなぁーにも救われないッ!!精々悪夢に魘され続けることでありますねェ!!』



「⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯?⎯⎯⎯⎯⎯⎯!!!!」



暗転







⎯やあ、お目覚めかい?



⎯そうだよ。僕だぜ僕。



⎯今日もまた良いものを見せてもらったよ。



⎯愛する妹をキミに殺され、恋人も洗脳されていたと知った彼の絶望の表情…ああ!思い出すだけでも愉快だよ



⎯ありがとう。キミのお陰でまだまだ彼らの″物語″は楽しめそうだ



⎯⎯そうだ!次の仕事を頼めるかな?



⎯とある名家の令嬢…子息……どっちだっけ?まあいいや。その子を主人公にした″物語″を作りたいんだ~



⎯勿論、協力してくれるよねぇ?










ただの幻想なのかもしれない



私のような道化は夢すら見てはいけないのだと思う



でも、少し。ほんの少し願うのなら…



もう少しだけ、ほんの少しだけで良いから。













この幸福を噛み締めていたい



             (fin)
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柚子カレーさん (9hl4ya4a)2025/4/2 11:28 (No.131176)削除
この人は、悪なのだと思ひました。

「私の夫として生涯を過ごすか、そのお綺麗な顔を潰されて飼ひ殺されるか、選ばせてやる」

平然と人を脅迫するのです。この人は、悪なのだと思ひました。

毎日の夕暮れ。人々が家路を急ぎ、あるいは家人の為に夕飯の買い物をする頃。
片腕だけの己が、提琴(ヴぁいおりん)を弾くための補助具を手に、街角で弓を構えます。不具(かたわ)の盲。ましてや10にも満たない子供。それが生きるために唯一の芸を披露する。それは、この街の日常でもありました。喜ばしいことに、僕はこの街に受け入れられていて、何人かの人はそっと僕の楽器函(がっきけぇす)にお心付けを入れて呉れるのです。
それが僕の生きる糧でした。贅沢はできませんが、その日その日を生きてゆくには十分でした。僕自身もまた、その暮らしで充分に足りていましたから、それ以上は望みませんでした。
目は見えない己ですが、それでも気配や靴音などで、人の見分けはつきます。この人は毎日来てくれる。この人は三日に一度。この人はいつも子供を連れてくる。この人は必ず紙幣を一枚入れる。顔こそ知りません。名前こそ知りません。それでも、僕のために足を止めてくれる人は、それが誰であれ、見分けがつきました。何度も来てくれる人には、その人が何も呉れない人だとしても。僕のようなものに関心を割いて呉れるだけで十分なことですから、必ず有難うと伝えました。それが僕の日常でした。

さうして、いつも人の輪から少しばかり離れたところで、僕の芸を見る人がいたのです。靴の音は、高踵靴(ひぃる)の音でしたから、女性だらうと思っていたのです。それは間違っていないやうでした。その人は、日毎に僕の演奏に近づいていました。けれど、人の輪からは必ず離れていました。
最初は音が聞こえるかといふ距離にいたその人でしたが、その日は人の輪のすぐそこにありました。僕の演奏が終わり、人の輪が疎らに散って、僕が函の中にあるお心付けを寄せて、提琴を仕舞い込む頃。その人は僕の方へ近づいて来ました。

さうして冒頭に繋がるのです。

「私の夫として生涯を過ごすか、そのお綺麗な顔を潰されて飼ひ殺されるか、選ばせてやる」

周囲にはもう誰もいません。救けて呉れる人は居ないのです。この人は最初からその時機を窺っていたのでせう。僕が何も言わずにいると、その人はまた言葉を重ねました。

「なるほど。飼い殺しが良いと見える」

勿論そんなことはありません。誰が好き好んで痛い目を見ると言ふのでせうか。それでも僕には判別がつかないのです。これが冗談で発せられたのか、或いは本気であるのか。顔の伺えぬ僕には、分からないのです。僕が窮っているのがその人も分かったのか、その人はぐいと顔を近づけて来ました。

「これは本気の誘いだぞ」

さう言われてしまえば、尚更僕は窮ってしまいました。ではどうしたらいいと言ふのでせう。これは選択ではありません。どちらに転んでも、僕に自由は無いのですから。

「うーん。提琴をこの街で披露する時間を、毎日キチンと呉れるなら良いよ」

ですから、仕方なく。僕はさう答えたのです。僕はこの街が好きでしたから。僕のようなものに、哀れみと、哀れみから来る差別を向けながら、嘲笑と憐憫は呉れないこの街が、大好きでしたから。それが僕の精一杯の譲歩でした。

「なんだ、その程度か。わが婿殿は随分と無欲だ」

けれどそれを、彼女はあっけらかんと笑い飛ばしました。あんな二択を突きつけておいて、もしかしてこの人は案外話の解る人なのかしら、と思ったのも少しの間だけの事でした。

「だがダメだ。お前は私の夫になるのだから、その提琴も私の為だけに奏でられる可きだ」
「それは窮るよ。僕にだって自由はあるんだ」

そう言えば、その人は実に心外だと言ふ声で、

「自由?哀れみに縋って日々を辛うじて生きることが?」

などと聞いてくるものですから。僕はムッとしてしまって、

「そうだよ。それが僕の自由ってものだ」

などと答えたのです。僕にも一端の矜恃というものがあったのです。その人は何かしばらく考えているようでした。

「埒が明かないな」

そんな声が聞こえたのは、少しの沈黙の後でした。気がつけば僕はその人に担ぎ上げられていました。精一杯に抵抗をしたのだけれど、どうして叶うことはありませんでした。
気がつけば、天鵞絨(びろぉど)のソファに座らされていました。抵抗はするだけ無駄でした。どれほど抵抗しても、彼女の前では意味がなかったのです。彼女は僕より余程力が強く、そして僕の言葉を聞くつもりはありませんでした。僕に許された自由は、提琴を弾くこと、自鳴琴(おるごぉる)を聞くこと、盲の為の粒で書かれた楽譜を読むことだけでした。

そんな日々に、ある日変化が訪れます。僕の部屋に、なにか巨きなものが運び込まれたのです。これはなんだ、と問う僕に、彼女は笑って答えます。

「自動演奏楽器、と言ふらしい。お前、何時だかに町のものに言っていただらう。大勢で音楽を奏でるのが夢だと。聞いてみればそもそも提琴は独りでやるものではないらしいな」

だからこれを用意したのだと。いつでも僕が、好きな曲を好きなようにやれるようにと。彼女にとってはなんでもない事だったのでしょうが。厭に腹が立ちました。
彼女はいつもこうなのです。外に出やうとさへしなければ、彼女は本当に良い妻でありました。なにくれと世話を焼き、食事には僕の好きなものを出し、外に出ない、人に会わないことさへ守れば、本当に。
腹が立つのは彼女にではありません。もちろん彼女にも腹が立ってはいますが。それよりも僕自身です。閉じ込められ、自由を取り上げられた身でありながら。そんな優しさに絆されてゆく僕自身に腹が立つのです。

そうは言へども、絆されているのは事実でした。まして僕もそういうことに興味を持つ年頃へ差し掛かっておりましたから。彼女と閨を共にするようになったのは、何も不思議ではありませんでした。彼女から求めたことは、一度としてありませんでした。ただ、僕が求めると、彼女は笑うのです。私のことを一人の女としてみるようになったな、と。そう笑うものですから。
僕は不具で盲です。僕を男として見るものなど、居ないでせう。まして幼くして人の群れから取り上げられたのです。僕を男として見るのは彼女だけでした。僕を抱きとめるのは彼女だけでした。僕の相手をするのは彼女だけでした。一度でもその温もりを受け入れて仕舞へば、堕ちてゆくのはあっという間です。

そうして、やがて彼女は孕みました。疑うことなく、僕の子でありました。ここに至って、また後悔が押し寄せるのです。僕は何を、と。あの女に自由を奪はれておきながら、限られた優しさに絆され、子供までこさえてしまった。本当にこれは正しいのでせうか。
やがて生まれた子を、彼女が僕の腕に抱えさせます。小さな小さな手が、僕の頬に触れました。たったそれだけの事で、どうして涙が止まらないのです。血が繋がっている。それだけの事です。それだけの事で、どうしてこんなにも愛おしいのでせう。どうしてそれだけのことが、こんなにも嬉しいのでせう。
彼女は悪でありました。その始まりは、紛うことなく悪でありました。そうして、今も僕は閉じ込められています。これも間違ひなく悪でありませう。それなのに生まれたこの子が、どうしてこんなにも。後悔と、幸福が綯い交ぜになって。僕はもうどうしやうもありませんでした。ただ、泣くのがやっとでありました。

僕の鳥籠に、子供が一人増えました。彼女はどうも名のある家のおんなのやうで、子供は厳しく躾られました。結果、子供は、子供らしい正義感で、薄らと、しかし確かに悪を厭うようになりました。

「ねえ、パパとママの馴れ初めは?」

子供にそう聞かれた時、僕は咄嗟に答えられませんでした。だって、僕らの始まりは悪であり、そして今もって続いているのです。僕は、今もまだ庭に降りることさへ許されていないのです。代わりに彼女が答へました。

「街で提琴を弾いているパパを見かけてね。それがあんまりにも綺麗だったから、毎日通ったんだ」

それは嘘ではありませんでした。真実でもありません。けれど子供はそれで納得したやうでした。子供は、それはロマンチックだね、と言いました。この子に始まりを教えることは無いでしょう。これからも、ずっと。

ある日のことでした。自動演奏の点検に来た、という男が、僕の手に何かを握らせました。

「俺は君を随分哀れだと思っているんだよ。君。閉じ込めて、優しさをチラつかせるなんて洗脳ではないか。初めて僕がここに来た日より、君。彼奴を見る目が随分と優しくなってしまっているよ。君だって、これが良い事ではないと判っているんだらう」

彼が握らせたのは、一本の小刀(ないふ)でした。

「彼奴はただでは死なないけれどね。これだって彼奴を殺すには随分と頼りない。それでも、これを刺して、よくよく陽の当たる部屋に閉じ込めておくんだよ。そうすれば彼奴は動かなくなるから。ねえ君。よく考えておいでよ。君、本当に彼奴を愛しているのかい」

そう問われて、即答できませんでした。愛しているかのやうに振る舞えば、彼女は喜ぶのです。彼女が喜ぶうちは、僕は放逐されません。生きる術もない不具の盲が、何不自由なく生きているのは、正しく彼女のおかげでした。僕の振る舞いは、絆されてのものでしたが、それと同時に打算のものでもありました。
僕たちの関係は、到底正しくありません。本当にこれで良いのか、など。問われるまでもないのです。知らず、それを握る手に力がこもりました。

「勿論遣わないのも君の自由だ。こんなものは無かったことにして、捨ててしまったっていい。何をするも、肝要なのは君の判断だ」

そう言って、彼は部屋を出てゆきました。僕は、それを机の上に置いて、椅子に座りもせず、ただぼんやりと立ち尽くしていました。

そうして、そうして、僕は、それで!

「ふ、ふふ。それが、お前の選択、か。ふふ、ふふふふ!」

「あぁ!メルツ君。君は実に善いことをした。常若の女王、夜ゆく不死者。それを見事退治せしめた。君は実に善い人だよ」

あぁ!ああ!そんな言葉がなんの慰めになると言ふのでせう。
失ってから愛していたと気づくなんて、あまりにも陳腐で在り来りな筋書きではありませんか!狂人の真似とて大路を走らばなんとやら!偽りと言え愛を謳うなどするべきではなかったのです!ましてや絆されているのなら尚のこと!
彼女は悪でありました。僕たちの関係は悪でありました。ならば僕も悪でなくてはなりません。彼女を失って幸せなどありませうや。彼女を殺して幸福など許されませうや。善人のままで彼女と同じ場所に行けませうや。僕は、悪でなくてはならないのです。
ですから、手始めに。目の前の悪人と友人になることにしました。

───────────

「世の中にはね、思い出さない方が幸福な思い出というのもある、と僕は思うわけだ。例えばあの男の最初の妻たる女、エリーゼベト=フォン=ヴェッティンがなぜ死んだのか?彼女を殺したのが、誰であるのか、とか。何しろ、それはほかでもない──」

かちゃ、とティーカップを置く音。ゆったり微笑むその狐は、可愛い可愛い蛇の子供に、視線を合わせる。

「メルツ=フォン=ルードヴィング。その人なのだから」

狼狽えた蛇に、狐は重ねて。

「いつか、あの愚かな男が思い出してしまった暁にはね、君が殺しておやり。あの男は、あの男が思うほど、もう強くも、正常でもないのだから」
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みくろんさん (91h7vmwr)2024/10/10 17:16 (No.118226)削除
『陰より這い出し脅威』







「何が変わった?」






『…一つも。変わっていないだろうね』






「この世界に期待なんて出来ない」






『そうかい?』






「バカな人類、空っぽの悪魔。アレらの闘争を眺めることの何が楽しいというのか……到底理解できない」






『違うね。この世界は自由だけでは成り立っていないんだよ。避けられない真実に立ち向かうこと、これはどんなに詰まらない条理だとしても従わないといけない』






「……リベラリズム。貴様も良く言うな」






『そう、自由主義。個々の主張は尊重されるべきだ……だけど、それによって他者の自由を害してはならない』






「笑わせてくれる」






『多層論理。原点を辿れば全ては終息する』






「……それが正しいと思っている。そうだろう?」






『正しい?いいや、違うね。正しいとか間違っているとか。善とか悪とか。そういう″観客″が吐く戯言で僕を判断しないでくれるかな?』






「…貴様には口喧嘩では勝てる気がしない」






『お褒めいただき光栄だよ』






「…だが、口だけだ。貴様のような…口だけの小僧が理不尽に打ち砕かれる様を、今までに何度も見てきた」






『僕がいなかったから、だろ?』






「…つくづく口の利くガキだな、貴様は」






『今、僕が此処に居る。今、僕が世界を歩いている』






『それだけで充分なんだよね。君は納得しないかもしれないけど』






「…ハッ。精々吠えておくことだ。正義は砕ける。外なる色は侵食する。調停者共では不可能だ。何れ、貴様の下らない野望も、この腐りきった世界も。役に立たないバカな調停者共も。全て、溶け落ちる」






『その、溶け落とすのが″僕″だ。全てを奪う』






「……」






『さて、死人に用はない。大人しく退場してもらうぜ?』






『  さん』

























 


















『(嗤う)』






『つくづく、僕には合わない配役だよね』


 



『まあでも………悪くない』






『来るべきその時に』






『最後まで』






『殺ろうじゃないか』































































































『  』









               (fin)
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みくろんさん (91h7vmwr)2024/9/13 00:41 (No.115633)削除
【解説:アレンジブレイカー】
正式名称:特性贈与機能_アレンジブレイカー。
製造元は株式会社サンタムエルテ。
発案者や製造行程、仕組みや材料は秘匿されている。
武器や道具、武装を対象として、搭載を可能とする機能である。
基本的には殺傷に扱われる武器に搭載される場合が多い。
この機能が搭載された武器が、何らかの『攻撃』と見なされる行動に使用された場合、その攻撃の媒体となる物体に内包・付随・潜在している『能力』を選び、ソレに能力特性を付与する。尚、対象とする能力の詳細を40%以上把握している必要がある。
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さん (8zf1pchi)2024/9/12 17:27 (No.115594)削除
【"あの子たち"のこと】






………かわいそう、すごくかわいそうな子。

とてもあわれでかわいそうな子。

ミコだけじゃどうする事もできないぐらいあわれな子。

あの子の苦しみ、ミコにはわかる。

わかるよ、でも、たすけてあげられない。

ミコはずっと見てた、あの子たちのこと。

でも、たすけてあげられなかった。

だってミコは"呪い"だから、わるい子だから。

ミコじゃたすけてあげられなかったから、周りのおとながたすけてくれればよかったのに、みんなみんなあの子たちを見捨てた。

あの子は妹が死んですごくかなしんだ。

ミコの中でいっぱいいっぱい泣いて、そして気付いたらいなくなって呪いになってた。

あの子は妹の姿を使ってた。

ミコがあの子の姿を使ってたから、だからまねしたんだって。

ミコは、早くに死んじゃったあの子がかわいそうで、『まま』に気付いてほしくて、だからあの子の姿使ってた。

でもあの子はちがう。

あの子は復讐のために妹の姿を使ってる。

…ねぇ、ミコはどうしたらよかったの?

ミコはどうしたらあの子たちを救えたの?

ミコは、ミコはね、あの子たちがわらってたらそれでよかったよ。

妹がわらうと、あの子も一緒にわらってた。

でも妹はいつのまにかわらうのをやめちゃってあの子も気にしてた。

でも、でもあの子は妹が生きてたらそれでいいって、そう言ってたのに。

妹は生きられなかった…最後まで愛されたいって思ったまま死んじゃった。

それが、あの子を傷つけた。

あの子はいま、たくさんわらう。

でもそのかおはまえのたのしそうなかおじゃない。

復讐がうれしいってわらう。

ねぇ、ねぇママ、ミコはどうしたらよかったの?

どうしても、なにしてもかわらなかった?

…ママはひどいよ、なにをいっても、なにをしてもわらってくれない。

ミコのこと、みてくれない。

ミコにはなにもおしえてくれない。

ミコは、ただママにわらってほしいだけなのに。

ミコのことみてほしいだけなのに。

…あの子たちもそうだったのかな。

自分たちのこと、みてほしかったのかな。

あいしてほしかったんだろうな、『だいすきだよ』って『かわいい子』っていっぱい、いっぱいギューってしてもらって、なでてもらって、だいじにしてもらって。

きっと、そういう『ふつう』がほしかったんだね。

ねぇ、ねぇまだまにあうかな。

まだ、あの子をすくえるのかな。

もしまだまにあうなら、あの子のこと、こんどこそすくってあげたいな。​
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みくろんさん (91h7vmwr)2024/8/30 05:58 (No.114648)削除
【カレントエナジー・マックスエナジーについて】
カレントエナジー及びマックスエナジーは『存在体*に内包されているエネルギー』を分類する語学的仮称のこと。

カレントエナジーはその存在体が現在内包しているエネルギーの質量自体のことを表す。『現在内包しているエネルギー』の概念に名前をつけた訳ではなく、『現在内包しているエネルギー』その物を指す。

マックスエナジーはその存在体*が『最も万全で自然な状態で内包している』エネルギーを表す。要はエネルギーの『最大総量』である。

カレントマナ**やマックスマナ**同様、エネルギーを超次元的能力等で得た場合、基本的に、カレントエナジーは上昇するが、マックスエナジーは変動しない。例えそれによってカレントエナジーがマックスエナジーを上回ろうとも。だが、例外として『マックスエナジー』を上昇させる能力、またはエネルギーの最大容量を上昇させる能力等を使用するなどの例外も存在する。

カレントエナジーやマックスエナジーが等しくなるケースも存在する。

カレントマナ**、マックスマナ**同様数値化が度々検討されるが、無限のエネルギーや限界を越えたエネルギー生産力を持っているネイチャー***が存在する為、現実的ではない。

(注釈)
(*=ソロル『存在体について』参照)
(**=ソロル『カレントマナ・マックスマナについて』参照)
(***=『ネイチャーについて』参照)

著者:エシカル・ウルストンクラフト
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みくろんさん (91h7vmwr)2024/8/27 18:39 (No.114420)削除
【カレントマナ・マックスマナについて】
カレントマナ及びマックスマナとは、一般的に『魔力』と称される非科学的超次元媒体を分類する語学的仮称のこと。

カレントマナはその存在体*(基本的にはネイチャー**)が現在内包している魔力が当てはまる。

マックスマナはその存在体*(基本的にはネイチャー**)が『最も万全で自然な状態で内包している』魔力が当てはまる。簡単に言うと『最大魔力量』である。

カレントマナとマックスマナが等しくなるケースもある。

どちらも数値化が検討されるが、無限の魔力や限界を越えた魔力の持ち主が存在する為、現実的ではない。

(注釈)
(*=ソロル『存在体について』参照)
(**=ソロル『ネイチャーについて』参照)

著者:エシカル・ウルストンクラフト
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みくろんさん (91h7vmwr)2024/8/23 13:47 (No.114034)削除
『灯りが消える時』

それは空虚だったのかもしれない。それは空っぽだったのかもしれない


少年は急速に流れる時間の波の中で思う。最初から間違っていたのかもしれない、と。


でも、それを直ぐに少年は否定する。″結果的に″それは人々に幸福を届けることになったからだ。


…本当にそうか?


少年は思案する。自らが『正しい』と思ってやってきたことは『正義』という偶像の押し付けに過ぎなかったのではないか?


……少年は墜ちていく。ただ、終わりのない時間の波の間で。


少年は回想する。あの時自らが『[黒塗り]』を行使していれば一人でも犠牲を減らせたのではないか?


………少年は深く、深く。墜ちていく。 


少年は後悔する。あの時自らが指示した所為で全員が犠牲となったのだ。


…………正義とはなんだ?救済とはなんだ?


……………馬鹿らしい。君がそんなモノに縋っていたから『弱かった』んだよ。嗚呼、愚か。


少年の理想は点滅する。最早決意などとうの昔に枯れきっていた。ただ、幻想を見ていただけだった。果てしなく、深い。






………………そもそも、あの時『彼』の手を取らなかったのが間違いだったんだ。要らぬ理想で、要らぬ拒絶を抱いたから。


『世界を変えたいと思ったことはないかい?″_さん″』


ふと、黒髪の『彼』の声が頭に甦る。


『僕は君の″正義″を尊重しようじゃないか』


『彼』は間違っていなかった。『彼』は確かに傲慢だったかもしれない。でも、『彼』には″意志″があった。б″覚悟″があった。


『だからさ…………僕と手を組まないかい?_さん。一緒にこの世界を奪おうぜ?』


眩しかった。あの時は間違っていると感じた。でも、ソレは嫉妬だった。理想と思想の為に自らを捧げられる彼が羨ましかった。


…………………光は閉じていく。闇の狭間に、消えていく。


「…ふふ。僕は愚かでした。本当に、清々しいですよ」


少年は笑みを浮かべてそう呟いた。どこか諦めていた。失った過去に絶望を感じていた。…でも、ソレを吹き飛ばすぐらいの笑顔だった。


心の奥底で『希望』は灯りを消していたのだろう。全て虚実だったんだろう。まあでも……この瞬間は『真実』だ。少年の心に確かに『光』は宿った。眩しい光をあげてソレは最後の輝きを見せる。


「最後にやり残したことをやらなきゃ…いけませんね!」


少年は精神世界に意識を潜らせ、そこにいた『ナニカ』に呼び掛ける。


「″ヴィルゴ″」


《″創造主″、何かご用ですか?》


精神世界に光が集まり、『少年にそっくりな』人影が現れる。


「……良いですか?僕はもうすぐ消えます。だから貴方が世界を守ってください。これは命令です」


《……………………了解》


その一言を聞いて満足そうに少年は『人影』の前から消え去った。





それから少年は精神世界を巡って、巡って。その精神も魂も尽きようとしていた。尤も、肉体はとっくに滅んでいるのだが。


……………………少年は満ち足りていた。満足していた。でも、心のどこかで寂しかった。もう生者に会うことは許されないのだから。


………………………少年は感謝する。最後に『希望』を抱かせてくれた黒髪の『彼』に。


「…ああ……この僕の力を……彼に渡したかった……ですね………結局………″恩返し″は出来ない…まま……ですか…」


『あはは、君は相変わらずだよね。そういうところが、さ。こういう場面だったら悔いなく終わるのがテンプレだろ?』


幻聴だ。幻聴に違いない。少年はそう考えた。でも、その幻聴は心地よかった。


「ありがとうございます……貴方のお陰でっ…………僕はっ………希望をっ……。だから、僕の『力』を全て………託します……。お願いです……″姉さん″を止めてください……!」


『あはっ。僕はただ自分語りをしただけだぜ?まあ良いよ。その力、譲り受けるよ。……分かってる。僕の″目的″の為にも、あの人は潰すつもりだからね』


少年の意識は曖昧になっていく。『彼』の声が子守唄のように少年を包んでいく。幼い時、″姉″がそうしてくれたように。





ふと少年は少しだけ気がかりだった桃色の髪の少女を思い出す。


ほんの最近会った他組織の人間だった。でも、何故か心配だった。満ち足りている筈の今でさえ、その少女のことを本能が気にしていた。


すると、まるで少年の心を読んだかのように『彼』はこう言った。


『あ、ソレは心配しなくても良いと思うね。案外近い時に会うんじゃないかな?』


少年はその言葉の意味を理解することは出来なかった。でも、少年は薄れていく意識の中で、希望に包まれて、消えていく。虚像の光で創られた少年は、ここにて、終わりを迎えた。





少年は消えた。思想と、理想と、幻想と共に。


確かに彼は間違っていた。でも、その過ちを最後に乗り越えた。


少年の、意志に、心に、精神に、正義に乾杯。


少年は死したが、その名誉は朽ちることはない。


さあ、少年の冥福を祈ろう。彼の名前は……































































































「最初から間違っていた……ね、確かにそうなのかもしれないよね」


『最後の最後に僕の手を取ったのは正解としか言えないけどね?』と付け加え、黒髪黒目の人物は一人、嗤う。


「ソレにしても、まさか_さんが僕に全てを託してくれるなんてね。あはは、人生分からないものだよね!ほんとに!……大丈夫、君の意志を、選択を無駄にすることはしないさ。必ず、僕は世界を奪うと約束しようじゃないか」


そう言って、彼は手元にある『ナニカ』を


















_咀嚼した
               (fin)
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みくろんさん (91h7vmwr)2024/8/8 17:04 (No.112752)削除
【オブジェクトについて】
オブジェクトとは、存在体*の中でも実体を持ち、ネイチャー**ではないモノを内包する語学的仮称のこと。

あらゆるネイチャーではない物体や物質。

能力によって作られた武器。

それらの総称である。

超次元的能力で放たれた火炎、水流等もオブジェクトである。



(注釈)
(*=ソロル『存在体について』参照)
(**=ソロル『ネイチャーについて』参照)

著者:エシカル・ウルストンクラフト
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